「Donald Trump trade threats lack credibility」という論説をサマーズが書いている。
以下はその冒頭。
As the possibility of a trade war between the US and China looms, threats and counter-threats are hurled back and forth and markets gyrate, economic logic and truth appear to be an early casualty. There are certain points of fact on which there should be no disagreement.
(拙訳)
米中間の貿易戦争の可能性が高まり、脅しと対抗措置の応酬が続いて市場が混乱する中で、経済上の論理と真実が真っ先に犠牲になったように見える。そんな中、異論の余地の無い事実が何点かある。
その事実としてサマーズは以下の5点を挙げている。
- 米国の経済問題と貿易協定の無関係性
- グローバル化と貿易は米経済に顕著な混乱をもたらしたが、直近に結ばれた貿易協定はほとんど無関係。
- 中国をはじめとする海外からの輸入の増加が、特に北部中央地域の製造業の労働者に大きな犠牲を強いたのは確かだが、同時にそれを相殺するような輸出の増加による雇用の恩恵もあった。
- 米経済は1980年代までに既に開かれており、その後の主要な貿易協定は米国よりもむしろ海外の貿易障壁を引き下げた。2001年の中国のWTO加盟はその典型で、米国側がWTO加盟国への最恵国待遇をそのまま継続した一方で、中国の経済政策は大きく変化していった。
- 米国の経済的混乱の真の原因は貿易協定ではなく、新興国がグローバル経済の主要な一員へと台頭していったことにある。これは米国が止められるものではなく、輸出上の恩恵や世界的な協調体制の利益を考えれば、抑え込むべきものでもない。
- 中国との交渉の有効性
- 知的財産の問題と雇用問題の無関係性
- 二国間交渉による脅しの無効性
- 二国間交渉による脅しは米国にとって効果的な戦略ではない。中国の貿易や商慣行に脅威を覚えていた国も、WTOや世界経済システムを無視する米国の貿易政策を前にしては、中国の側に付かざるを得ない。
- その場合、中国は米国以外の国への輸出を継続することができ、中国製品を使う米業者は自分たちだけが関税を支払わなければならないことにより競争力を失うため、制裁の効果は乏しくなる。
- 1990年代の日本への貿易規制などの歴史が示す通り、そうした制裁はコストは大きいが成果は乏しい。
- 脅しの信頼性の欠如
- 脅しが効果を発揮するためには信じられなければならない。
- ここ数週間、米国が戦略を前面に押し出すと市場が小規模な暴落を起こし、そうした戦略を撤回する動きを見せると市場が上昇する、ということが繰り返された。
- そうした状況で、米国が脅しを実行に移すと信じられるだろうか? そして実行に移すと信じられなければ、中国がきちんとした対応策を打ち出すだろうか? 最近の中国の高官との会合では、中国側は警戒しているというより戸惑っているという印象を受けた。