五大誌の呪い

というジェームズ・ヘックマン主催のセッションが今年初めのASSA大会で開かれたことをロジャー・ファーマーが紹介している。パネルディスカッションにはヘックマンのほか、ジョージ・アカロフ、アンガス・ディートン、ドリュー・フューデンバーグ、ラース・ハンセンが参加したとの由。

Heckman made several points in a talk informed by a series of fascinating slides that you can find linked here. He pointed out that, although many top economists publish important highly cited papers outside the top five journals, the influence of the top five is increasingly important in promotion and tenure decisions, a point I also made here.
Why is that a bad thing? One of the most insidious aspects of the curse of the five is that it concentrates power in the hands of a small group of insiders and that makes it much harder for new ideas to emerge. Figure 11, taken from Heckman’s talk, illustrates a density plot of the number of years served by editors in four of the top five journals. The QJE, a journal dominated by Harvard, is an outlier with slow turnover in editorial control. But the influence of the other top journals is also pervasive and entry to the club depends on success determined by its established members.
(拙訳)
ヘックマンは、ここにリンクされている一連の素晴らしいスライドを使った講演で、幾つかの点を指摘した。彼は、多くの一流経済学者が重要で引用回数の多い論文を五大誌以外に発表しているものの、五大誌の影響は昇進やテニュアの決定においてますます重要になっている、と指摘した。それは私もここで指摘した点である。
なぜそれが悪いことなのか? 五大誌の呪いの弊害で最たるものの一つが、少数のインサイダーの手に権力を集中させてしまい、新しいアイディアの出現をかなり困難なものにしてしまう、という点である。ヘックマン講演の図11では、五大誌中四誌において編集者が務めた年数の密度関数を示している。ハーバードの支配下にあるQJEは、編集者のコントロールの入れ替えが緩慢という点で例外的となっている。だが他の一流誌の影響もまた大きく、クラブに入れるかどうかは、その既存のメンバーが決定権を握っている成功次第である。

この後ファーマーは、テニュアが得られるかどうかがAERへの論文の掲載次第となったという知人から聞いた事例を紹介し、テニュアの決定がAERの編集者の手に委ねられるのは現行システムの問題を示している、と述べている。その上で、問題の解決策としてアカロフが示した以下の5点に同意する、としている。

  1. 編集者はレフェリーの判定をもっと頻繁に覆すことによってもっと決定に責任を持つべき
  2. レフェリーがしばしば論文の書き直しに手を出す現状から、レフェリーがアドバイザーだった状態に戻るべき
  3. 五大誌への掲載がテニュアの決定に果たす役割を縮小する方向に持って行くべき
  4. 五大誌の掲載本数を競うようなことは「恥ずかしい」ことだと学部長に認識させるべき
  5. 経済学界でテニュアを持つ一員として認められるような知的分野の範囲を広げるべき

それに加えて、ファーマーは以下の2点を提案している。

  1. 助成機関に影響力を持つ経済学者は、研究をランク付けするに当たって、五大誌以外にも等分のウエイトを付与すべき
  2. 若手学者の昇進は、自薦の3本の論文(著書も可)を基に決めるべき
    • 現行のシステムは、若手学者が派生的な論文を大量生産することを促すが、その社会的な効用は無きに等しい。

*1:cf. 日本人経済学者を対象にしたこちらのリストでは、五大誌以外に30誌を対象にしている。