何が1990年以降の貿易量の増加をもたらしたのか

クルーグマンが、最近は貿易量の増大の話は旬ではなくなった――一つには貿易量がプラトーに達したため、もう一つにはトランプという喫緊の課題が出てきたため――と断りつつも、1990年から大不況前までの貿易量の増大をもたらしたメカニズムについて考察している

そこで彼は、輸送コストなどの障壁が、経済学者のいわゆる「有効保護率」と同じ働きをするのではないか、という考えを示している。


有効保護率という概念について彼は次のように説明している:輸入代替産業の保護を試みるある国が、自動車に関税を課すが自動車部品には関税を課さない場合、その国は事実上、自動車の組み立て産業を保護していることになる。
例えば自動車の関税率が20%であると同時に、価値にして輸入車の半分を占める部品は関税なしに輸入できるものとすると、自動車組み立て産業のコストが輸入先よりも40%割高だとしても、その産業は成立する。従って20%の名目関税率は40%の有効保護率となる。


輸入元の新興国の視点からこの話を展開すると、次のようになる:ある財の生産コストが先進国では100であるとする。うち50は中間投入財で、残りの50は組み立て費用である。新興国は投入財を生産できないが、輸入した投入財を組み立てることはできる。ただし、輸出入には10%の輸送費が掛かるものとする。
完成品の輸出だけを考えれば、新興国は100÷1.1≒91以下のコストでその財を生産できれば良い、ということになる。しかし輸入する投入財にも輸送費が掛かるので、そのコストは50×1.1=55となる。従って、先進国では50である組み立て費を、91ー55=36以下に抑える必要がある。つまり、10%の輸送費を克服するために、組み立て費を28%安くしなければならないことになる。


だが、一方でこのことは、輸送費のわずかな低下も、新興国が保持すべき生産コストの相対的な安さを大きく減らすため、生産立地に大きな影響をもたらすことを示している。しかもそれは貿易量にさらなる大きな影響をもたらす。というのは、完成品だけでなく中間財の輸送も増加するからである。こうして、数多くの「バリューチェーン」取引が成立する。


1990年代に起きたのはこういったことではないか、とクルーグマンは言う。即ちコンテナ化と発展途上国の貿易の自由化により、貿易が増えた、ということである。だがそれはますます一回きりの出来事であったように見える、ともクルーグマンは述べている*1

*1:ここここで紹介したように、この結論はクルーグマンのかねてからの持論。