というNBER論文が上がっている(ungated版)。原題は「From Extreme to Mainstream: How Social Norms Unravel」で、著者はLeonardo Bursztyn(シカゴ大)、Georgy Egorov(ノースウエスタン大)、Stefano Fiorin(UCLA)。
以下はその要旨。
Social norms are typically thought to be persistent and long-lasting, sometimes surviving through growth, recessions, and regime changes. In some cases, however, they can quickly change. This paper examines the unraveling of social norms in communication when new information becomes available, e.g., aggregated through elections. We build a model of strategic communication between citizens who can hold one of two mutually exclusive opinions. In our model, agents communicate their opinions to each other, and senders care about receivers' approval. As a result, senders are more likely to express the more popular opinion, while receivers make less inference about senders who stated the popular view. We test these predictions using two experiments. In the main experiment, we identify the causal effect of Donald Trump's rise in political popularity on individuals' willingness to publicly express xenophobic views. Participants in the experiment are offered a bonus reward if they authorize researchers to make a donation to an anti-immigration organization on their behalf. Participants who expect their decision to be observed by the surveyor are significantly less likely to accept the offer than those expecting an anonymous choice. Increases in participants' perceptions of Trump's popularity (either through experimental variation or through the “natural experiment” of his victory) eliminate the wedge between private and public behavior. A second experiment uses dictator games to show that participants judge a person less negatively for publicly expressing (but not for privately holding) a political view they disagree with if that person's social environment is one where the majority of people holds that view.
(拙訳)
社会規範は不変で持続的であり、時には経済成長や景気後退や体制変化を超えて続く、と通常思われている。しかし、社会規範が急速に変化することもある。本稿では、選挙などを通じて新しい情報が利用可能になった場合の、コミュニケーションにおける社会規範の崩壊を調べる。我々は、互いに排他的な2つの意見のいずれかを持ち得る市民同士の戦略的コミュニケーションのモデルを構築する。我々のモデルでは、主体はお互いに意見を交わし、送り手は受け手の是認を気にする。そのため、送り手はより一般的な意見を表明する可能性が高くなり、受け手は一般的な見解を述べた送り手のことをあまり憶測しようとはしない。我々はこの予言を2つの実験で検証した。主要な実験では、ドナルド・トランプが政治的な人気を集めたことが、個人が公けに排外的な見解を進んで表明することに与えた因果関係の影響を識別した。実験の参加者は、自分の代わりに研究者が反移民団体に寄付することを認めれば、特別報酬が提供される。自分の選択が調査者に見られると予期した参加者は、選択が匿名になると予期した参加者に比べ、申し入れを受ける可能性が有意に低かった。参加者が(実験で設けた差、もしくは、彼の勝利という「自然実験」を通じて)トランプの人気をより認識するに連れて、内密の行動と公けの行動の差は消滅した。第二の実験では、独裁者ゲームを用いて、実験参加者は、ある人が自分の同意しない政治的見解を公けに表明しても、その人の社会環境ではそれが多数派の見解であるならば、その人にあまり否定的な評価を下さなくなる(ただしその人が秘かにそうした見解を有している場合はそうではない)、ということを示した。
この研究を紹介したブルームバーグ記事(H/T 稲葉振一郎氏ツイート)では、同研究はTimur Kuranの下記の本の理論を厳密に検証するという困難な仕事を達成した、と評価している。
Private Truths, Public Lies: The Social Consequences of Preference Falsification
- 作者: Timur Kuran
- 出版社/メーカー: Harvard University Press
- 発売日: 1997/09/30
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In Kuran’s view, there is a big difference between what people say they think and what they actually think. Sometimes for better or sometimes for worse, people’s statements and actions are inhibited by prevailing social norms. When norms start to disintegrate, we can see startlingly fast alterations in what people say and do.
(拙訳)
クランの見解では、人々が自分の考えだと言うことと、実際の考えとの間には大きな差がある。良きにつけ悪しきにつけ、人々の言動は一般的な社会規範に制約される。規範が崩壊し始めると、人々の言動は驚くほど急速に変わる。
記事ではまた、実験の概要を概ね以下のように説明している。
- 選挙の2週間前に、Predictwiseサイトがトランプ勝利確実とした8州(アラバマ、アーカンソー、アイダホ、ネブラスカ、オクラホマ、ミシシッピ、ウェストバージニア、ワイオミング)から458人を募集。参加者の半数にはトランプが勝利すると伝えられ、残りの半数にはトランプの勝利見込みの情報は何も伝えられなかった。
- すべての参加者は、「The Federation for American Immigration Reform」に研究者が1ドルを寄付することを認可するかどうかを尋ねられた。その際、同団体は、創設者が「私は、欧州系米国社会ならびに文化の存続のためには欧州系米国人が多数派でなくてはならず、しかも明確にそうでなくてはならない、という見解を持つに至った」と記すような反移民団体であることは正確に伝えられた。参加者が寄付を認可すると、追加で1ドルを貰える。
- 参加者の半数は、寄付を認可するという決定が匿名となることを保証された。残りの半分にはそうした保証は与えられず、むしろ研究チームが接触するかもしれない、と伝えられた。即ち、寄付を認可するという意思が公けになる可能性が示された。
- 自分の州でのトランプの勝利予測が伝えられなかった人々においては、反移民団体への寄付は、匿名が保証された場合に遥かに魅力的なものとなった。秘密が守られるとした人々の認可率は54%で、そうでない人の認可率は34%だった。一方、トランプの勝利予測が伝えられた人々では、匿名か否かは問題にならず、いずれも約半分が認可した。
- 追加検証として、大統領選後の最初の週に同じ州で実験を繰り返したところ、トランプ勝利も匿名効果を打ち消し、匿名か否かに関わらず約半分の参加者が寄付を認可した。