コンビニ人間の経済学

Dietz Vollrathが、サービス部門というのは生産性はそれほど低くないかもしれない、という考察を導き出したAlwyn Youngの2014年のAER論文WP)を紹介している


エントリの冒頭でVollrathは、一般にサービス部門の低成長性はボーモルの病で説明される、という点を指摘している。それによると、サービス部門は本質的に製造業に比べ生産性が低いが(∵サービスは時間単価で提供されることが多いが、1時間のサービスは1時間未満では提供できない)、所得弾力性は高いため(=皆が豊かになるとサービス部門への需要は増える)、時間の経過と共にサービス部門の従業者が増え、経済全体の生産性が低下する。それに対しYoungは、サービス部門の従業者が増えると人員の平均的な質が下がるためにサービス部門の生産性が低下するのではないか、というある意味においてボーモルの病を引っ繰り返した仮説を提示しているとのことである。

The idea comes from the Roy model (1951), a classic economics paper about the distribution in earnings. At it’s heart, the Roy model is about self-selection. Imagine that each person has some built-in ability to work in manufacturing, and some built-in ability to work in services. There may be some elements of these abilities that are correlated (maybe you are really smart and could figure out how to do either efficiently), but regardless you’ll have a comparative advantage in one of them. Yes, the same idea of comparative advantage as in trade. You may be good at both activities, but relatively speaking you’ll be better at one or the other when I compare you to someone else.
Young works out an exact case of the Roy model where your comparative advantage is positively correlated to your absolute advantage. That is, people who are relatively good at manufacturing are also absolutely good at manufacturing. ...
When comparative advantage and absolute advantage are correlated in a Roy model, any movement of a worker from one sector to another will lower the average skill of the receiving sector, and raise the average skill of the sending sector. ...
This is the essence of Young’s story, and he shows that if this is how things work, then it has an effect on measured productivity growth in each sector.
(拙訳)
この考えは、所得分布に関する経済学の古典的な論文であるロイ・モデル(1951)から来ている。ロイモデルは基本的には自己選択の話である。各人が製造業で働く能力とサービス業で働く能力をそれぞれ幾ばくか持っているものとしよう。二つの能力の要因は相関しているかもしれないが(本当に賢ければ、どちらについても効率的にこなす能力があるだろう)、それでもどちらかに比較優位を持っているだろう。そう、貿易における比較優位と同じ話である。どちらの活動についても優れているかもしれないが、他者と比較した場合に相対的に言えばどちらかに優れているはずである。
ヤングは、比較優位が絶対優位と正に相関している場合のロイ・モデルについて研究した。即ち、相対的に製造業に優れている人が、絶対的にも製造業に優れている場合の話である。・・・
ロイ・モデルで比較優位と絶対優位が相関している場合、労働者がある部門から別の部門に移動すると受け側の部門の平均スキルは下がり、送り側の平均スキルは上がる。・・・
これはヤングの話の本質であり、もしこれが実際に起きていることならば、各部門の測定された生産性成長率に影響を与える、ということを彼は示している。


VollrathはYoungの考えを以下の式で説明している(添え字やハットは省略)。
  R=A+ξs
ここでRはある部門の生産性成長率であり、Aはその部門の真の生産性成長率、sは同部門の労働者の割合の増加率、ξは労働者の平均能力ないしスキルがその比率にどのように反応するかを示すパラメータである。
Youngは実証研究からξがマイナスであることを示した。ただ、測定誤差は大きいため、ゼロではない、ということが多くの部門で棄却できなかった、とのことである。とはいえ、性別、年齢別、教育別に60種類の職業についてξを測定したところ、一貫してマイナスという結果が出た、という。ξがマイナスならば、製造業のように縮小している部門(s<0)では真の生産性成長率は測定された生産性成長率より低くなり、サービス部門では逆が成立する。
Youngの推計によればξは-0.5と-1.0の間、とのことである。米国の製造業の生産性成長率は年率1.57%であり、サービス業は0.73%であるが、もしξ=-0.5ならばその差は1.10対0.84に縮まり、ξ=-0.75ならば0.87対0.90とサービス業が僅差ながら逆転することになる。


このYoungの研究についてVollrathは以下の点を指摘している。

  • ロイ効果の時系列的変化を示していないため、90年代のように全体の生産性成長率が高かった時期と2010年代のように低かった時期で同効果がどのように違うかが分からない。
  • ロイ効果では全体の生産性成長率の減速は説明できない。ロイ効果を調整した場合、EUでは真の生産性成長率が高くなり、米国では低くなる。ロイ効果で説明できるのは、減速がボーモルの病のせいではない、ということに限られる。ただ、それでも重要な貢献である。
  • この話を20世紀初頭の農業と製造業に当てはめた場合、縮小しつつあった農業の生産性成長率は過大評価され、拡大しつつあった製造業の生産性成長率は過小評価されていたことになる。すると、20世紀半ばの生産性成長率は高かった、というロバート・ゴードンの説はもっと極端なものになるのかもしれない。