以前、日本のGDPデータを用いてHPフィルタの端点の不安定性を示したことがあったが、BOEブログで同様の図が示されている。
著者のMarko Melolinnaは以下のように述べている。
Given this end-point problem, researchers have come up with more complex, and theoretically more appealing methods for estimating output gaps. I have used one such method (introduced in more detail in Melolinna and Tóth (2016)), which is a small semi-structural unobserved components model. The model uses Bayesian methods to combine prior assumptions and the information content in the data to come up with the optimal solution for all the parameters of the model. Theoretically, the model is based on well-established macroeconomic relationships between GDP, unemployment and inflation. Additionally, the model – uniquely – includes a financial conditions index (FCI), consisting of eight financial market variables. These variables are price and volume measures of different market sectors, and they can be expected to contain some information on macroeconomic as well as financial market dynamics. Hence, the FCI attempts to account for the macro-cyclical signal of financial market variables for the estimation of the output gap.
(拙訳)
この端点問題があるため、研究者は、より複雑で、かつ、理論的により魅力のある生産ギャップ推計手法を提示した。私はかつてそうした手法を用いたことがある(その手法はMelolinna and Tóth (2016)でより詳細に紹介されている)。それは半構造的非観測要素モデルで、モデルのすべてのパラメータについての最適解を求めるために事前の仮定とデータの情報内容を結び付ける際、ベイズ手法を用いている。理論的にこのモデルは、GDP、失業、インフレ間の確立されたマクロ経済的関係に基づいている。またこのモデルは、独自の特徴として、8つの金融市場変数から成る金融状況指数を取り込んでいる。8つの変数は相異なる市場部門の価格と数量の指標であり、金融市場の動向だけでなくマクロ経済の動向についても何らかの情報を含んでいると期待できる。即ち、生産ギャップ推計に当たって金融状況指数を取り込んだのは、金融市場変数が発するマクロ景気循環のシグナルを意図していたわけである。
その著者の手法による推計値とHPフィルタの推計値を比較したのが下図である。
赤の破線はリアルタイムの推計(=上で言う端点をつないだもの)、黒の実線は全期間の推計である。両者が近いほど端点問題の深刻度が低いと言える。ここで上は金融状況指数を取り込んでいないバージョン、下は取り込んだバージョンである。Melolinnaは、取り込んだバージョンの方が、危機前の「過熱期間」を含めた生産ギャップの動向を良く捉えている、としている。また、金融状況指数を取り込んだバージョンと比べると、HPフィルタの基準化平均誤差(2005Q1から2014Q4までの各四半期の乖離幅平均の絶対値を、全期間推計の生産ギャップの標準偏差で割ったもの)はおよそ2倍だったとの由。