専門家のインフレ予測から趨勢的インフレ率を抽出できるか?

について研究した論文「Reverse Kalman Filtering US Inflation with Sticky Professional Forecasts」がクイーンズ大学のワーキングペーパーシリーズに上がっている。著者はフィラデルフィア連銀のJames M. Nasonとクイーンズ大学のGregor W. Smith。
以下はその要旨。

We provide a new way to filter US inflation into trend and cycle components, based on extracting long-run forecasts from the Survey of Professional Forecasters. We operate the Kalman filter in reverse, beginning with observed forecasts, then estimating parameters, and then extracting the stochastic trend in inflation. The trend-cycle model with unobserved components is consistent with numerous studies of US inflation history and is of interest partly because the trend may be viewed as the Fed’s evolving inflation target or long-horizon expected inflation. The sluggish reporting attributed to forecasters is consistent with evidence on mean forecast errors. We find considerable evidence of inflation-gap persistence and some evidence of implicit sticky information. But statistical tests show we cannot reconcile these two widely used perspectives on US inflation forecasts, the unobserved-components model and the sticky-information model.
(拙訳)
我々は、米国のインフレをトレンド要因と循環要因にフィルタリングする新たな方法を提示する。その手法は、予測専門家調査*1から長期予測を抽出することに基づいている。我々はカルマンフィルタを逆に適用し、予測データからパラメータを推計し、その上で確率変動するトレンドを抽出する*2。トレンド要因と循環要因を取り出すこの観測不能成分モデルは、米国インフレ史に関する数々の研究と整合的である。また、FRBインフレ目標の推移もしくは長期的な期待インフレ率としてトレンドを捉えることができるという点からも、このモデルは興味深いと言える。予測者の見通し改定が緩慢であることは、平均予測誤差に関する実証結果と整合的である。我々はインフレギャップ*3の持続性に関する有力な証拠を見い出したほか、予測に暗黙裡に含まれる情報の粘着性に関する証拠も見い出した。しかし統計的検定からは、観測不能成分モデルと粘着的情報モデルという、米国のインフレ予測において広く使われている二つの見方を両立させることはできないことが示された*4

*1:cf. これ

*2:本文の説明によると、フィルタでパラメータ推計→1期(もしくは数期)先を予測、というのが通常のフィルタの手順であるが、ここでは、専門家の予測値→モデルのパラメータ推計→要因を抽出、というように予測から始まりフィルタで終わる点で逆順になっている、との由。

*3:本文中では「“inflation gap,” defined as the transitory component from this decomposition」と定義されている。

*4:結論部では、「The forecast stickiness that seems to be implied by forecast-error properties does not yield a trend-cycle decomposition with unpredictable innovations to the two components(予測誤差の特性に起因すると思われる予測の粘着性は、トレンド要因と循環要因への分解を、その2つの要因の変化が予測できない形で行うことができなかった)」ため、「UC model, where trend inflation follows a martingale(インフレのトレンド要因がマーチンゲールに従う観測不能成分モデル)」と整合的にはならなかった、と記述されている。