弾力性悲観主義

クルーグマンが、実質為替相場は貿易収支に影響しない、という最近復活しつつある議論を「弾力性悲観主義(elasticity pessimism)」と呼び、それへの反論として以下の3点を指摘している

  1. 欧州周縁国への資本流入はインフレと実質為替相場の増価をもたらし、巨額の貿易不均衡につながったが、実質為替相場が問題にならないというのならば、そうしたことが起きる理由が無い。
  2. 分析のうちあるものは景気循環要因を十分に考慮していない。経済回復と為替減価が並行して起きる場合は、需要の増加が競争力の改善を打ち消すため、貿易赤字の減少につながらないだろう。アイスランドはその好例。また、海外からの資本流入が突然止まった場合、固定相場においても輸入は大幅に縮小するが、そのことを理解する上でもこの話は重要。
  3. この件には他の要因が数多く絡んでくるため、自分の理論に合うデータだけを拾わないように注意する必要がある。それを避ける一つの方法は、最近のIMFの研究のように、大幅な実質為替相場の変動だけを対象とし、多くの国について弾力性を推定し、結果をプールすることである。その結果、統計誤差的な小さな変動を外し、大数の法則の力を利用することにより、ノイズを打ち消すことができる。

クルーグマンはまた、貿易の価格に対する反応を推計する際に起きやすいバイアスについて分析した1950年のオーカット*1古典的な論文を再訪すべき、と強調している。

クルーグマンは、正しい分析をすれば貿易の弾力性はかなり大きくなるはずだ、という点について自分が大いなる予断を持っていることを自認しており*2、間違っていることが証明されるのも歓迎だとした上で、将来の政策に取って非常に重要なことなので、分析は注意深く行うべき、と述べてエントリを結んでいる。