以前、中国の通貨切り上げを求めるクルーグマンを批判する論者を取り上げたが、女性経済ブロガーのレベッカ・ワイルダーもその戦列に加わった(ただし彼女はクルーグマン個人には言及しておらず、元切り上げ論者全般をターゲットにしている)。
その論理を一言で言うと、中国では既にインフレが始まっており、実質為替レートはもう切り上がっている、というものである。クルーグマンは以前、名目為替レートを固定すればインフレによって然るべき実質為替レートが達成される、と書いたが、ワイルダーは、まさにその現象が生じたことによって今や元切り上げは不要になった、と主張しているわけだ。
彼女は、「中国のインフレは必ずしも悪いことではない(Inflation in China is not necessarily a bad thing )」というAngry Bearの1/22ポストで、中国のインフレ率のグラフと実質為替レートのグラフを並べて、インフレによって実質為替レートが上昇したことを示している*1。
また、Angry Bearと自ブログにクロスポストされた1/10エントリでは、実際、既に貿易収支に影響が出ていることを示している。即ち、輸出が伸び悩む一方、輸入が急伸したことが示されている。
さらに、2/6の「この件については中国の肩を持たざるを得ない(I have to side with China on this one )」と題された2/6の自ブログポストでは、貿易収支の傾向を別の2枚のグラフで描画して、再度その点を強調している。グラフの一つは、輸出ならびに輸入の3ヶ月ベースの年率換算の伸びを示したものであり、もう一つは、貿易収支のGDP比の推移を示したものである。
なお、2/13ポストでは、中国の輸入相手上位10ヶ国の推移を描画して、それらの国がこうした傾向によって恩恵を蒙ったことを示している。内訳の一位は日本であり、米国は四位である。
ワイルダーは、2/6ポストで、人民元は適正水準にあるという中国の公式見解を支持している。また、1/22ポストでは、
...the REER has been on a downward trajectory throughout 2008*2, but remains elevated compared to its 2006 levels. The real exchange rate is the single-most important factor in determining trade flows. An inflation-driven growth in the real value of the Chinese yuan (REER) would effectively, and eventually, drop China's export share with key trading partners.
と書いて、今後もこの傾向が続くであろうと示唆している。
[2010/2/17追記]WSJブログにも同様の内容の記事が上がった。