単なる嘘つきや事実を否定する人と議論で合意するのは不可能

Economics of Contempt(EoC)ジョン・テイラーやジョン・コクランについてそう書いている。


以下はEconomist's Viewにおける抜粋。

After reading John Taylor and John Cochrane's analyses Lehman's failure, I'm beginning to understand how it's possible for economists to say that "we're still arguing about the causes of the Great Depression." It's generally hard to come to an agreement when one side simply lies, or refuses to acknowledge undeniable facts.

I've already dealt with John Taylor's ridiculous claim about Lehman's derivatives counterparties. John Cochrane's "analysis" of Lehman's failure is equally fictitious...This is just mind-boggling nonsense. It's genuinely frightening that a prominent professor of finance can be so utterly clueless about modern financial markets. ... [gives reasons why the analysis is wrong]

John Cochrane and John Taylor are both prominent economists, and they will no doubt convince legions of starry-eyed grad students that Lehman's bankruptcy was really only a minor event. John Taylor, at least, will no doubt also convince these grad students that the real problem was the government's handling of the bailout. And 80 years down the road, economists will be saying, "We're still arguing about the causes of the Financial Crisis of 2008."

(拙訳)
ジョン・テイラーとジョン・コクランのリーマン破綻に関する分析を読んで、なぜ経済学者が「我々は大恐慌の原因について未だに議論している」などと言うことが可能なのか漸く分かり始めた。議論の片側が単に嘘をついたり、否定できない事実を認めるのを拒んだら、一般的に意見の一致を見ることは難しい。
リーマンの派生商品の取引相手に関するジョン・テイラーの馬鹿げた主張については既に論じた。ジョン・コクランのリーマン破綻に関する「分析」は、同じくらい現実離れしている。・・・これは唖然とするような戯言だ。ファイナンスの著名な教授が、現代のファイナンス市場についてこれほど何も分かっていないということがあり得るというのは、真に恐るべきことだ。・・・[コクランの分析が間違っている理由の説明]
ジョン・コクランとジョン・テイラーは、共に著名な経済学者であり、目を輝かせた大学院生の一団に、リーマン破綻が実は大した出来事ではなかったことを納得させるのは疑いない。そして、少なくともジョン・テイラーが、本当の問題は政府の救済方法にあったのだということをもそうした大学院生たちに納得させるのは疑いない。今から80年後、経済学者たちは、「我々は2008年の金融危機の原因について未だに議論している」と言っていることだろう。


Economist's ViewのMark Thomaは、デロングの馬鹿な人列伝のバレンタインデー3倍増量特別祭りのリストにこれも加えるべき、とコメントしている。


なお、上でThomaが省略したコクランの間違いのEoCによる指摘は以下の通り。

  • コクラン「リーマン破綻後に、その損失による破綻の第二波は生じなかった」
    • 間違い。多くのヘッジファンドが潰れた。ただしその多くはLLPだったので、破産申請ではなく、予め決められた清算手続きという形を取ったが、破綻であったことには変わりない。
    • リーマンの最大の取引相手、すなわち他のディーラーが、事実上皆政府に救済されたという事実を、テイラーと同様、なぜか無視している。
  • コクラン「リーマン破綻の余波は、英国の破産裁判所で回収が滞ったこと*1と、一部のMMFで基準価額が額面割れ("broke the buck")*2を起こしてFRBから借り入れたことくらいで、いずれも修復が容易な出来事であり、世界的なパニックを引き起こすようなものではなかった」
    • リーマン・ブラザーズ・インターナショナル・ヨーロッパ(Lehman Brothers International Europe=LBIE)破綻の影響は、英国での回収の問題に留まるものではなかった。14万の取引がフェイルし、400億ドルのプライム・ブローカレッジ*3の顧客ファンドと資産がLBIEの管財人によって凍結された。その400億ドルは、顧客のヘッジファンドにとって予想外にも突然利用できなくなった。ヘッジファンドがプライム・ブローカーをレバレッジを掛けるのに利用していたことを考えると、このことは、市場から何千億ドルもの流動性が忽然と姿を消したことに等しい。
    • また、モルガン・スタンレーやゴールドマンというプライム・ブローカーの二大巨頭を利用していた他のヘッジファンドまで、恐怖に駆られて資金を引き出し始めた。投資銀行は、プライム・ブローカレッジの顧客口座を資金調達源に使っていたので(それがプライム・ブローカレッジ口座が「無条件信用(free credits)」と呼ばれる所以)、このことは、取引相手が融資を停止したのに等しい。
    • MMFからの資金逃避も些細な出来事では決して無かった。最大のMMFの一つであるリザーブ・プライマリー・ファンドが額面割れを起こしたのは、リーマンのCPから蒙った損失が原因だった。これはMMFからの大規模な資金逃避を引き起こし、償還額は1000億ドルを超えた。つまり、リーマン破綻は、MMFからの資金逃避の直接の引き金を引いた。
    • MMFからの資金逃避がシティなどの銀行への融資の停止につながった理由は幾つかある。最大の理由は、MMFが解約に対応するため、銀行のクレジットラインを使い切ったことだ。機関投資家がこのことを知り、ホールセールの資金調達市場で大手銀行からどんどん手を引き始めた。そこに、MMFによる資産投げ売りが襲い掛かった…。
    • 資金回収とMMFの2つの問題が「修復が容易」だったとするコクランの主張は、彼がいかに浮世離れしているかを物語っている。LBIEの管財人によって凍結されたプライム・ブローカレッジの顧客の大部分は、未だに返還を受けていない。「修復が容易」どころか、未だに修復されていないのだ! あと、MMFFRBから借り入れたことは金輪際無い。FRBの様々な融資手段の構造がやや込み入っていることは分かるが、しかしコクランは権威あるビジネススクールファイナンスの教授ではなかったのかね?
  • コクラン「リーマンの活動の大部分は、新しいオーナーのもとで、日を置かずして再開された」
    • 確かにバークレーがリーマンの米国の中核部隊を買収し、野村がアジアやヨーロッパの部隊の一部を買収した。ただし、もちろん厄介な負債抜きでだ! コクランが知っているかどうか分からないが、破綻の際は、債務者の負債こそが、その破綻の周囲への影響度を決定する重要な要因となるのだ。

*1:cf. これ

*2:cf. ここ

*3:cf. ここのBOX図表2。