企業の高収益の意味を判断するのは時期尚早?

昨日紹介したサマーズの企業収益に関する考察はエコノミスト誌のカバーストーリーを受けたものだったが、同じカバーストーリーを見てConversable EconomistブログのTim Taylorも企業収益について考えを巡らせている
以下はその概要。

  • GDPに対する比率などで見た場合、近年の企業収益の増加は明確。だが、1950〜70年代の収益も高水準で、1980年代と1990年代が相対的に低かった。
  • 企業の高収益を所得格差と結び付けて論じる人もいるが、1950〜70年代の格差が低かったことと70年代に格差拡大が始まったことを考えると、その関連性はまったくもって明確ではない。
  • 税引き前と税引き後の差は1950〜70年代に大きかった。法人税GDPに対する割合は時を追って縮小しており、特に企業収益の高かった1950〜70年代に大きく縮小した。近年の高収益は税引き前と税引き後の両方の利益に表れており、法人税制の産物とは言えない。
  • 高収益は企業の生産物が消費者に高く評価されているというシグナル、というのが理想形。その場合、企業は投資を行って生産を拡大し、雇用を増やし、賃金を上げるべき、ということになる。実際、1950〜60年代の高収益は、低失業率、および、雇用と賃金の確固とした上昇を大体において伴っていた。
  • 対照的に、近年、特に大不況以降の高収益の波は、高水準の投資や、生産と賃金の拡大などと結びついていない。あるいは、米経済の「投資」指標が既に時代遅れになっているのかもしれない。21世紀の企業は、新たなサービスを提供するために、機械設備ではなく、従来の統計では捉えきれない無形資産に投資しているのかもしれない。失業率は、低下速度が期待より遅かったとは言え、今や5%を切っている。賃金も期待されたように上昇しなかったが、これから上昇するという前兆も見られる。
  • 企業収益は最終的には何らかの形で経済に還元されるが、その還元の仕組みは時とともに変化する。例えば、1950〜60年代の高収益企業は高配当を株主に渡していたが、今は株の買戻しを行っている。
  • 企業収益の分布は不均一性を増している。即ち、利益を最も稼いでいる企業ほどそのシェアを高めている。また、M&Aの大きな波が進んでおり、エコノミスト誌のカバーストーリーでは業界内の集中度が高まっていること、即ち、上位の一握りの企業の売上高のシェアが高まっていることを報告している。米企業の開業率は低下しており、若い企業で働く労働者の比率も低下している。これらのことは、既存の企業の集団が顕著な高収益を得ている、という構図を示している。振り返ってみれば、1950〜70年代の高収益に貢献した成功した大企業は、当時、世界的な競争にあまり曝されていなかった。
  • 企業の高収益の意味するところは、多くの経済問題と同様、今後1〜2年の追加データにより明らかになるだろう。もし今後数年で投資や賃金が上昇し、利益が低下し、株の買戻しやM&Aで投資家に資金が戻れば、過去数年は大不況後の移行期だった、ということになるだろう。しかしもし利益が高いままならば、生産者同士の競争が弱まった、といった他の説明の可能性が増す。関連する理論として、高収益企業の多くが技術系会社で、起業にはリスクと多額の費用が伴うが、成功すれば忠実なユーザーの共同体が構築され、莫大な利益が長続きする、というものがある。