歩道に放置された数兆ドル?

12/6エントリで取り上げたジョン・コクランのエントリの第2項目では、非効率性を解消すれば所得が上がるという主張の裏付けとして、世銀の「フロンティアまでの距離」指標と一人当たりGDPの散布図を示していたが、そのほかに2つの論文を引いて自説を補強している。その一つが、Chang-Tai HsiehとPete Klenowの2009年のQJE論文「Misallocation and Manufacturing TFP in China and India*1

以下はその要旨。

Resource misallocation can lower aggregate total factor productivity (TFP).We use microdata on manufacturing establishments to quantify the potential extent of misallocation in China and India versus the United States. We measure sizable gaps in marginal products of labor and capital across plants within narrowly defined industries in China and India compared with the United States. When capital and labor are hypothetically reallocated to equalize marginal products to the extent observed in the United States, we calculate manufacturing TFP gains of 30%–50% in China and 40%–60% in India.
(拙訳)
資源の配分ミスはマクロ的な全要素生産性TFP)を低下させる。我々は、製造業の施設に関するミクロデータを用いて、米国と比べて中国とインドにおける潜在的な配分ミスがどの程度になっているかを定量化した。我々の計測によれば、中印の狭義の工業の工場においては、労働と資本の限界生産物が米国に比べてかなり低い。我々の計算では、限界生産物が米国の観測値と同程度になるように資本と労働を仮想的に再配分すると、製造業のTFPは中国で30-50%、インドで40-60%上昇する。

コクランは本文から以下の文章を引用している。

Full liberalization, by this calculation, would boost aggregate manufacturing TFP by 86%–115% in China, 100%–128% in India, and 30%–43% in the United States.
(拙訳)
完全な自由化は、この計算によれば、製造業のマクロ的なTFPを中国で86-115%、インドで100-128%、米国で30-43%引き上げる。

ここで言う完全な自由化とは、コクランの単純化した説明によれば、主として人の移動を自由化することにより、生産性の低い工場を縮小し、生産性の高い工場を拡張することである。コクランは、上記の数字でさえそうしたマッチングの改善による効果に留まっており、すべての工場を通じてTFPを上昇させるような規制緩和政策の効果は含まれていない、と注記している。


コクランが引いたもう一つの論文は、Michael A. Clemensの2011年のJEP論文「Economics and Emigration: Trillion-Dollar Bills on the Sidewalk?」である。コクランの説明によれば、この論文では、国境の開放によってやはりスキルや機会のマッチングを改善することにより、世界のGDPはおよそ倍増する、と論じている、とのことである。コクランは、この論文もあくまでも「水準」の計算に基づいており、成長理論におけるより良いアイディアによる「規模」効果*2は考えていないが、水準の倍増の過程では大いなる「成長」が期待できるのだ、と述べている。

*1:本ブログでは以前こちらで触れたことがある。

*2:cf. 昨日エントリ