対数軸の罠

引き続きコクランの成長戦略ネタ。
6日エントリの脚注で触れた通り、「フロンティアまでの距離」と一人当たりGDPを散布図上の回帰直線で関連付けた第2項の分析は、Kids Prefer CheeseブログでAngusに厳しく批判されている。
以下は問題の図。

ここでFROは「フロンティアまでの距離」指標ですべて100点を達成したフロンティアランド(Frontierland)であり、LRNはリバタリアンの理想郷(Libertarian Nirvana)で、いずれも仮想的な国である。


この図の分析における逆の因果関係の問題はコクランも言及しているが、それ以外に以下のような問題がある、とAngusは言う。

  1. コクランの分析によれば、中国の成長は終わっている。これは随分と大胆な予言である。
  2. 縦軸が10を底とする対数軸になっているため、横軸の各事業環境スコアに対応する一人当たり所得の非常に大きな不均一性を隠す形になっている(これが今回の自分の主要な論点である、とAngusは言う)。
    • 例えば中国のスコアは63で、一人当たりGDPは7000ドルである。一方、ネパールのスコアも非常に近いが、一人当たりGDPは1000ドルを大きく下回っている! ガーナのスコアも同様の値だが、一人当たりGDPは中国の半分以下である。それらの国、および、同様のスコアを持ちつつ中国より一人当たりGDPがかなり低い何十という国では、成長ブームは起きていない。グラフ上はそれらは近いように見えるが、実際には違う。近く見えるのは単なるスケーリングの問題に過ぎない。
    • また、中国と同様のスコアで2倍以上裕福な国もある。それらすべてが産油国というわけではない。
    • 事業環境スコアが50から75の範囲においては、所得のばらつきは非常に大きい。これは開発経済学では良く知られた問題である。規制や法律を調整しただけで特定の経済効果が得られる保証は何もない。

Angusは、成長の加速というものは概して予測不可能であることを強調し、ハウスマン=プリチェット=ロドリックの代表的な論文からの金言として以下の言葉を引用している。

Finally, and perhaps most importantly, we find that growth accelerations tend to be highly unpredictable: the vast majority of growth accelerations are unrelated to standard determinants such as political change and economic reform, and most instances of economic reform do not produce growth accelerations.
(拙訳)
最後に、おそらくは最も重要な点として、成長の加速が非常に予測不可能であるという傾向を我々は見い出した。成長の加速の大多数は政治の変化、経済改革といった標準的な決定要因と関係しておらず、経済改革の事例の大部分は成長の加速をもたらさなかった。

Angusは、コクランが言うような機械的な要因は存在していれば世銀の助言は効果があったはずであり、世界の貧困問題は数十年前に解決していたはずだ、と述べてエントリを結んでいる。


ちなみにこのエントリのコメント欄にはデロングが姿を見せ、論旨とは離れた形でコクランをdisるコメントを書き込んでいる(別のコメンターは、こういうコメントをデロングのブログに書き込んだら削除されるだろう、と皮肉っている)。