以前のエントリで土地と動学的効率性に関する論文を紹介したライプニッツ大学のStefan Homburgが、表題の論文(原題は「Understanding Benign Liquidity Traps: The Case of Japan」)を書いている。
以下はその要旨。
Japan has been in a benign liquidity trap since 1990. In a benign liquidity trap, interest rates approach zero, prices decline, and monetary policy is ineffective but output and employment perform decently. Such a pattern contradicts traditional macro theories. This paper introduces a monetary general equilibrium model that is compatible with Japan’s performance and resolves puzzles associated with liquidity traps. Possible conclusions for Anglo-Saxon countries and eurozone members are also discussed.
(拙訳)
日本は1990年以降良性の流動性の罠にある。良性の流動性の罠では、金利はゼロに近付き、物価は低下し、金融政策は無効となるが、生産と雇用はそこそこ良い。そうしたパターンは伝統的なマクロ経済理論に矛盾する。本稿は、日本の状況と整合的な金融一般均衡モデルを導入し、流動性の罠にまつわる謎を解明する。アングロサクソンの国やユーロ圏の国にとっての結論となり得る点についても論じられる。
結論部によると、論文のモデルでは、信用制約によって良性の流動性の罠が導かれるという。また、伝統的な理論では説明できない金融抑圧も、このモデルの均衡においては導かれるとの由。そこではインフレを引き起こすことなしに中銀が恒久的に名目金利を引き下げることができ、フォワードガイダンスによって予想実質金利をマイナスにすることさえできる。この2つの政策オプションは、信用制約下では、投資は信用コストではなく信用の利用可能性に制約されることから導かれるという。そのため、信用コストの引き下げは成長とインフレに影響しないとの由。また、この時の実質金利は、資本ストック減少の社会的コストを過小評価し、動学的効率性の判断を偏らせるとの由(通常は一致するとされる資本の限界生産性と実質金利が信用制約下では一致せず、実質金利[ゼロインフレでは名目金利に等しい]の方が低くなるため。その差は信用制約だけから生じる不確実性を伴わないエクイティプレミアムである)。
信用制約が生じる原因については、以下が候補として挙げられている。
- 担保の不足、とりわけ地価の下落
- バーゼルなどの金融規制
- 信用の上限が低下したのではなく、均衡信用水準が上昇した
- その場合、会計慣行や規制や地価の動きの鈍さのせいで信用の上限が速やかに調整されないならば、積極的な金融政策はむしろ制約をきつくする方向に働く
論文の図1では、信用制約(債券発行額Bの低下)による資本ストックのファイナンス制約がデフレによって緩和されるというモデルの調整プロセスが図示されている。