コント:ポール君とグレッグ君(2011年第12弾)

第9弾と同じく特にお互いへの言及は無いが、同じ研究を見てほぼ正反対の評価をしている。

グレッグ君
総需要を喚起する方策としてのサプライサイド政策について論じたフィラデルフィア連銀論文は重要な点を突いているね。以下はその要旨:

本論文では、名目金利のゼロ下限の罠に経済を嵌めてしまう総需要の低迷に対処するのにサプライサイド政策がどのような役割を果たすかを研究している。サプライサイド政策によって惹起された将来における生産性の上昇や利幅の圧縮によって資産効果が生み出され、それが現在の消費と生産を高める。経済はゼロ金利下限にあるので、ゼロ金利下限で無い場合のように金利上昇がこの資産効果を損なう、ということは無い。我々はこのメカニズムを単純な2期間ニューケインジアンモデルによって描写する。我々は、こうした政策の組み合わせに対し想定される異論、および、サプライサイド政策と通常の財政金融政策との関連について論じている。

ポール君
サプライサイド政策――労働者をもっと生産的にしたり、価格をもっと伸縮的にしたりする構造改革――が流動性の罠の解決策になるかもしれない、というVox論文が出ているね。この話に飛びつく人がいるかもしれないので、通り一遍の解釈では大間違いを犯すことになる、ということは指摘しておくべきだろう。

Eggertssonや僕が示したように、流動性の罠という鏡の世界ではサプライサイドの改善は逆効果になる、ということは既に分かっている。押さえておくべき点は、総需要曲線が右上がりなる、ということだ。というのは、価格の下落は金利を下げることができない一方で、債務の実質負担を増やしてしまうからなんだ。従って、賃金の伸縮性を増せば、バランスシート問題を悪化させるだけに終わる。

ではなぜVox論文は違った結論に達しているのか? 経済が自然に流動性の罠を脱するまでサプライサイドの改善効果が表れない、と仮定しているために、逆効果が生じないからだ。そこで消費者は、そうした将来の改善を正しく認識し、自分が豊かになったと感じ、現在の支出を増やす、というわけだ。

まあ、それが正しい、という可能性はある――消費者が十分に情報を得ていることが前提になるけどね。僕の見たところ、米国の一般家庭はおろか、プリンストンの経済学部の人々でも、税制改革や労働規制改革が5年後の所得に与える影響に基づいて家庭の支出を考える人は誰もいないけど、その話は措いておこう。

重要なことは、現在我々が抱えているのは需要の問題だという事実を忘れないことだ。需要、需要、需要。