FT Alphavilleでイザベラ・カミンスカが、INETコンファレンスでのサマーズのインタビューを書き起こしている。以下はその概要。
- 2008年の金融危機は世界にとってひどい出来事だったが、内省を余儀なくさせたという点で経済学にとっては良いことだった。過去25年間におけるニューケインジアンや古典派経済学の通念は再考を余儀なくされた。
- マクロ経済学が取り組むべきは生産ギャップであって、生産の変動性ではない。今日教えられている事実上すべてのモデルは、政策が影響を与えられるのは生産の変動性であって平均水準ではない、と仮定しているが、それは完全に的を外している。生産ギャップを回避することこそ真の課題であり、確率過程ではなく出来事に取り組むべき。2004年から2005年に掛けてのGDPの細かな変動などではなく、2008年の金融危機、日本のバブル崩壊、大恐慌、北欧危機のような出来事に取り組むべきなのだ。
- 事実上すべてのマクロ経済学は、余暇が良くて労働が悪い、と前提しているが、これは正しくない。引退が健康に良くないという医学的証拠は山ほどあるし、本コンファレンスの参加者の大部分も、同じ給料を貰い続けながらすべての職から外されることを快く思わないだろう。確かに人々がこれ以上働きたくないと思う限界点は存在するが、今のマクロ経済学の単純な前提よりは話は複雑。
- 技術進歩に纏わる構造的および循環的な事象に取り組む際に経済学は、自分が何がしかの貢献を行ったことからもたらされる人々の基本的な満足感、というものを認識する必要がある。それは、今の経済学の教科書にはまったく載っていない。
- ここまで、マクロ経済学が適切なものとなるために教科書に載せるべきことを幾つか挙げたが、今後十年の現実を見据えるならば、長期停滞も教科書に載せるべき。
- 長期停滞は、人々の貯蓄性向と、その貯蓄を投資に振り向けたいと思う欲望との間の、慢性的かつ構造的なミスマッチ。その理由として考えられるのは:
- ケインズはその著書を、特定の状況下における雇用・利子および貨幣の特別理論、と題するべきだった。その特定の状況とは、慢性的な需要不足。その問題についての彼の洞察は、金融政策よりは財政政策の方が相対的に効果があり望ましい、というものであり、経済が自己修復するという前提には根拠が無い、というものだった。これはまさに我々が置かれているマクロ経済的状況に当てはまる。
- 自分の所見が間違っていたら良いと思うし、判断に確信を持っているわけではないが、今後の政策を考える上で考慮しておくべき話ではある。不況突入以降の米国の成長率は官民の予測を下回ったし、ましてや生産ギャップを埋めることも叶わなかった。
- 今こそ借り入れを行って公共投資をすべき。今のケネディ空港を素晴らしいと思う者は誰もいないだろう。航空管制は21世紀の今も真空管に頼っている。半面、政府は自国通貨建てで0.5%以下の長期金利で借り入れが可能であり、建設部門の雇用は伸び悩んでいる。ケネディ空港をいつ修繕するか? 今でしょ!
- インフラ投資の余裕は無い、という人もいるが…
- GDPの乗数効果を考えれば、インフラ投資が自らを賄う可能性は十分にある。
- 今日の不況を緩和すれば明日の潜在生産力が上昇するのは今や明らかな事実。これは、需要不足が将来の供給不足を創り出すという逆セーの法則。インフラ投資は生産能力を上げて将来の生産を増加させる。
- 財政赤字を心配する人は、子供たちを心配することにかけて倫理的独占権を有していると思っている。自分に言わせれば、科学の発展への投資の不在、インフラの維持管理の先延ばし、人員削減で機能しなくなった公共部門を子供に引き継ぐ方が、実質ベースで1%未満の金利で累積する「紙の負債」を引き継ぐより余程心配。
- 維持管理を先延ばしして問題を悪化するに任せた場合、費用は実質ベースで1-2%よりもっと早いペースで増大する。
- 長期停滞への対処法は3つある: