今さらIS-LMのミクロ的基礎付け?

Economic Logicianが、Pascal Michaillat(LSE)とエマニュエル・サエズのNBER論文ungated版)「An Economical Business-Cycle Model」を嘲笑的に紹介し、「bad research」の烙印を押している。
以下は論文の要旨。

We construct a microfounded, dynamic version of the IS-LM-Phillips curve model by adding two elements to the money-in-the-utility-function model of Sidrauski (1967). First, real wealth enters the utility function. The resulting Euler equation describes consumption as a decreasing function of the interest rate in steady state–the IS curve. The demand for real money balances describes consumption as an increasing function of the interest rate in steady state–the LM curve. The intersection of the IS and LM curves defines the aggregate demand (AD) curve. Second, matching frictions in the labor market create unemployment. The aggregate supply (AS) curve describes output sold for a given market tightness. Tightness adjusts to equalize AD and AS curve for any price process. With a rigid price process, this steady-state equilibrium captures Keynesian intuitions. Demand and supply shocks affect tightness, unemployment, consumption, and output. Monetary policy affects aggregate demand and can be used for stabilization. Monetary policy is ineffective in a liquidity trap with zero nominal interest rate. In contrast, with a flexible price process, aggregate demand and monetary policy are irrelevant when the nominal interest rate is positive. In a liquidity trap, monetary policy is useful if it can increase inflation. We discuss equilibrium dynamics under a Phillips curve describing the slow adjustment of prices to their flexible level in the long run.
(拙訳)
我々は、ミクロ的基礎付けを持つ動学版のIS-LM-フィリップス曲線モデルを、シドラウスキ(1967)のmoney-in-the-utility関数モデルに2つの要素を付け加えることにより構築した。まず、実質資産を効用関数に入れた。その結果として、オイラー方程式は定常状態において消費を金利の減少関数として表現するようになった――IS曲線である。実質貨幣残高への需要は、定常状態において消費を金利の増加関数として表現するようになった――LM曲線である。IS曲線とLM曲線の交点は、総需要(AD)曲線を定義する。次に、労働市場でのマッチングの摩擦は失業を生み出す。総供給(AS)曲線は、所与の市場逼迫度の下で販売される生産量を表現する。あらゆる価格過程において逼迫度は、AD曲線とAS曲線を等しくするように調整される。硬直的な価格過程では、この定常状態の均衡はケインズ的な直観を捉える。需要ならびに供給ショックは、逼迫度、失業、消費、そして生産に影響を与える。金融政策は総需要に影響を与え、安定化に役立つ。名目金利がゼロとなる流動性の罠においては、金融政策は無効となる。対照的に、伸縮的な価格過程においては、名目金利が正の場合は総需要と金融政策は無関係である。流動性の罠においては、インフレを上昇させることができれば金融政策は有用である。我々は、長期的な伸縮的水準への価格の緩慢な調整を表現するフィリップス曲線の下での均衡の動学を論じる。


Economic Logicianはまず、いかにも当世風の経済学者らしく、IS-LMを次のようにこき下ろしている(cf. これとは対照的な見方については例えばここ参照)。

  • Economic Logicianに言わせれば、IS-LMモデルは、除外変数と内生性の問題を抱えた誘導形の回帰と同等。いろいろ適当に済ませれば、データに適合するモデルは幾らでも作れる。
  • 最も変に感じるのは、IS-LMをミクロ的基礎付けで正当化しようとする奇妙な執着。なぜかIS-LMが究極の真実として受け止められており、それをリバースエンジニアリングして説明要因を見つける必要があるとされている。究極の真実はデータであってモデルでは無い。

その上で、論文の問題点として以下を挙げている。

  • 今どきMIU関数(およびwealth-in-the-utility関数)を出発点とするなど信じられない。人々は貨幣を持つこと自体ではなく、それによってもたらされる購買力を享受している。貨幣によって購入する財は既に効用関数に入っているし、あるいは貨幣による取引の円滑化は容易にモデル化できる。資産についても同様で、それがもたらす将来の消費や保障は標準的なモデルで簡単に取り込まれている。
  • この論文は大いなる退歩。マクロ経済学者は、市場への政策効果を見極めるために摩擦の存在理由を理解しようとしている。何でもかんでも効用関数――それも、その特性を自由に選択できる関数――に押し込むのは、何ら解決に結びつかない。また、それは間違ったことでもある。というのは、これも誘導形なので、政策変更の影響を受けるから。

エントリの最後でEconomic Logicianは、IS-LMファンが何か啓発してくれるかしらん、と皮肉っぽく結んでいる。このエントリにはコメントが3つ付いているが、いずれも、IS-LMに死を、といった感じのコメントである。