コント:ポール君とグレッグ君(2014年第4弾)

お互いへの直接の言及は無いが、同じCBOレポートを見て、インセンティブ効果について対照的な反応を見せている。

グレッグ君
CBOレポートからの引用:

CBOはACAが総労働時間をネットベースで2017年から2024年に掛けて1.5〜2.0%減少させると推計している。その原因のほとんどすべては、新規の税金やその他のインセンティブに直面し、あるいは一部の人は金銭面での恩恵を受けるため、労働者が労働供給を減らすことを選択するためだ。

この推計で暗に導出されているのは、人々がどの程度インセンティブに反応するかを示す弾力性だ。僕の感覚では、こういったインセンティブ効果を測るという話になると、CBOはいつも控え目な数字を出す。だから僕は、影響を受ける労働時間についての彼らの推計を下限と見做している。実際の数字はもっと高いだろう。
追記:こうしたインセンティブ効果について僕が5年前に書いた論説はこちら
(その論説でマンキューは、所得逓減的な医療保険補助は所得逓増的な限界税率と同等であるとし、国民皆保険レーガンが目指した限界税率の削減を損なうものである、と論じている。一応、医療改革には実施する価値は無いと言っているわけではない、とも断っているが、同時に、良い医療を受診できるのは全国民の権利であるべき、という考え方の是非は、経済学者ではなく政治哲学者が判断すべき事柄だ、と述べている。)
ポール君
これは、第一に、労働時間の減少の話で、仕事をやめるという話ではないし、第二に、労働供給側の自発的な反応の話であって、雇用の喪失の話ではない。でもやはりインセンティブ効果が問題になるのではないかって? そうかもしれないし、そうでないかもしれない。このことについては後でもっと詳しく書くつもりだが*1、基本的な話は、そもそもの仕組みが雇用者負担の医療保険料控除のためにインセンティブが大きく歪められている、ということだ。これは結構な恩恵だが、基本的にフルタイムの労働者しかその恩恵に与れない。その結果、貧困世帯への補助を受けるためにわざと労働時間を減らすという通常の福祉国家のディスインセンティブの話とは逆に、その恩恵を受けるために本当はフルタイムで働きたくない人がフルタイムで働く、ということが起きる。それは仮説上の話ではなく、実例もある。とすると、CBOが推計した労働時間の減少は厚生の上昇ということになるのかって? そうかもしれないし、そうでないかもしれない。通常のトレードオフも確かに多くの労働者に当てはまる。でも、それが悪いことだと決めつけることはできない。医療改革は歪みの無い経済に歪みを導入するという話ではなく、ある歪みを別の歪みで置き換えるという話なんだ。それに、助けを求めている人には大きなプラスだ、という点は変わらず明らかな点だ。

*1:実際に書いたのがこちらの後続エントリ(cf. MBK48さんによる解説)。さらにここここでフォローアップしている。