ノアピニオン氏が、民間部門でDSGEが使われていないことから、DSGEは市場テストに失敗しているのではないか、という疑問を投げ掛けた。これにMRでアレックス・タバロックが良い指摘だ、と反応した。また、マシュー・イグレシアスは、問題なのはあくまでも淡水学派モデルであり、DSGEになるとどんなことでもモデル化できるのでそれ以前の話だ、と述べている。一方、タイラー・コーエンは、DSGEの評価を切り下げるのは結構だが、完全に退けてしまうのは良くない、とたしなめている。
ノアピニオン氏の批判に対して正面から応じたのがTony Yatesで、ノアピニオン氏への反論となるポイントを幾つか挙げている。
- 民間部門でもDSGEを使っている人はいる
- DSGEは公共財としての役割を果たしている
- ハイパーインフレを経験したドイツはインフレへの忌避を醸成したが、そうした破壊的な経験に依らずして財政金融政策の然るべき方向性を形作る役割をDSGEは果たしている。
- 適度な規模の政策介入についてはルーカス批判を気にする必要は無い
- ノアピニオン氏の指摘:無条件予測の場合は統計的関係に依ったモデルで十分だとしても、条件付き予測をする場合にはDSGEのようなルーカス批判を織り込んだモデルを使わなければならないはずである、とDSGE派は言うが、それが正しければ、民間部門もDSGEを使うことによって予測が改善し利益を得る機会も増えるはずなのに、実際には使っていない。
- この点についてYatesは、Leeper and Zha論文の結果を引きながら、政策介入の程度がそれほど大きくない場合には、VARなどで過去のデータを基に推計した係数もそれほど変化せず、条件付き予測をするのに十分使える、と指摘している。
そのほかYatesは、中央銀行が有能な人材をおびき寄せる餌としてDSGEを使っている可能性、および、あまり有用でないと分かっているにも関わらずネットワーク外部性のために皆がDSGEを研究している可能性を指摘している。それに対しノアピニオン氏は、コメント欄で、モデルそのものの価値ではなくそうしたモデルを扱える能力を示すシグナリングの役割をDSGEが果たしている可能性を指摘している*2。
*1:ちなみにこの点については、ノアピニオン氏の大学時代の教官だったというChris Houseも同様の反論をつい最近始めた自ブログで行い、ノアピニオン氏のいわゆる市場テストの機会は限られている、と述べている:
I would think that it would be reasonable to think that for most purposes, investment bankers can simply use purely ad hoc statistical forecasting methods – methods devoid of any structural economic content but which have substantial predictive content — to make market predictions. In the rare instance that there is some important change in policy they might use a structural model to adjust their predictions.
(以下はコメント欄でのノアピニオン氏への反応)
Noah, your point is well taken but the market test critique is then limited to only instances when there are actual policy changes (most “actions” by the federal reserve are not policy changes the way you would need them to be …).
*2:ノアピニオン氏の元エントリの追記では、DSGEを採用時のスクリーニングに使っているという雇用者側の意見をEcon Job Market Rumors掲示板から拾って紹介している。ちなみに、同エントリのコメント欄でStephen Williamsonは、マクロ経済学者はその気になればウォール街で儲けられるのだから市場テストに失敗したという指摘は当たらない、と反論したが、DSGEの訓練を受けた人の就職市場がこのエントリの主題ではない、とノアピニオン氏に軽くいなされている。