バランスとしてのウエスタン・ラリアット

一昨日のエントリでは、一部のマクロ経済学者による今回のノーベル賞受賞者の業績解釈が的外れであることを指摘したが、そうした勘違いは、一つにはマクロ経済学者の方々がファーマをはじめとする代表的なファイナンス学者の以下の特質をあまり理解していないために生じていると思われる。

  • 彼らは基本的に理論家というより実証研究家である。
  • マクロ経済学の理論では現実の場での実験は難しいが、ファイナンス研究者には資産市場という現実に実験を行える場がある。彼らの多くは実際にファンドを立ち上げて自分たちの考えを実証しようとする。
    • 自分の理論はあくまでも理想的な仮定の下に成立するもので現実の資産市場でそのまま応用するのは難しい、と考えているならばそのような行動は取らないであろう

最近見つけたこちらの記事でも、そのような投資理論の実地への応用の話が書かれている。ただ、そうした話は実際に元記事を読んでいただくとして、今日は同記事からシラーの発言を引用しておく(なお、この記事は2010/5/12付けなので、今回のノーベル賞受賞の前のものである)。

As he had done with his earlier prescient forecast of “irrational exuberance” in the stock market bubble of the late ’90s, Shiller seemed to be staging a direct attack on the Efficient Market Hypothesis (EMH), which University of Chicago economist Eugene Fama had developed three decades earlier. According to Fama, investors are always rational, and markets accurately reflect all publicly known information. In this utopian world, securities will always be appropriately priced, and no amount of analysis can result in outperformance. Shiller, for his part, vehemently disagrees.

“The Efficient Market Hypothesis is one of the most egregious errors in the history of economic thought,” he says. “It’s a half-truth.”
(拙訳)
先見の明を発揮して90年代後半の株式市場バブルにおける「根拠無き熱狂」を予測した前回と同様に、シラーは効率的市場仮説に直接攻撃を企てているように見える。その仮説は、シカゴ大の経済学者ユージン・ファーマが30年前に開発したものだ。ファーマによれば、投資家は常に合理的であり、市場は公けに知られた情報をすべて正確に反映する。このユートピア的な世界では、証券は常に適切に価格付けされ、いくら分析を積み重ねても市場に勝つことはできない。一方、シラーは、これを激しく否定する。
「効率的市場仮説は経済思想史の中で最もとんでもない間違いの一つだ」と彼は言う。「それは半面の真理でしかない」


なお、この記事では、アンドリュー・ローが両者の折衷案(another theory, which he calls the Adaptive Markets Hypothesis, in which markets are neither efficient nor irrational, but some combination of both)を提示した、という記述があるが、そのローが、今回のノーベル賞受賞について、ブルームバーグ記事で面白いことを述べている。曰く:

The choice of having Hansen complement the two extremes of efficient markets and inefficient markets is the perfect balance between the two
(拙訳)
効率的市場と非効率的市場の両極端を補う形でハンセンを入れたという選択は、2人の間のバランスとしては完璧だ。