水曜道化ショー・続き

昨日紹介したライアン・アベントの論説を、かつての同僚であるMatthew C. Klein*1が「FRBは道化ショーではない(The Fed Is Not a Clown Show)」と題したブルームバーグ論説で批判している。曰く:

Avent, however, seems to think it is inappropriate for policymakers to consider anything other than current employment and consumer prices.
(拙訳)
しかしながらアベントは、現在の雇用と消費者物価以外のことを政策当局者が考慮するのは不適切だと考えているようだ。

ここで雇用と物価というのはFRBの二つの任務(dual mandate)であるが、Kleinは実はそれだけでは不十分だという。その点を、Klein論説を取り上げたTim Duyが以下の通り簡潔に表現している*2

Triple mandate - maximum sustainable employment, price stability, and financial stability.
(拙訳)
三つの任務――維持可能な最大限の雇用、物価の安定、そして金融システムの安定。

即ち、FRBは今や雇用と物価だけではなく金融システムの安定をも考えねばならない、量的緩和の早期縮小を検討しているのもそれが理由であり、彼らは別に道化を演じているわけではない、というのがKleinの主張である*3


その際にFRBが直面する問題について、Duyは以下のように書いている。

Perhaps if monetary policy could focus solely on the first two, while macroprudential policy takes on the last, then the triple mandate would not pose a major challenge. But, alas, as Klein notes, this is not the case.
(拙訳)
金融政策が最初の二つに専念し、三番目についてはマクロプルーデンシャル政策で対処できれば、三つの任務というのも大いなる難問ということにはならないだろう。しかし残念ながら、Kleinも言及しているように、現実はそうではない。

さらにDuyは、結語で以下のようにまとめている。

Monetary policymakers are viewing financial stability as an important element of sustaining maximum employment and stable prices over the course of a business cycle. The challenge is that this involves a new trade-off in the monetary policy process that they are struggling to understand. Unfortunately, the public debate they are carrying on is somewhat clownish in that it is sending conflicting signals about the path of monetary policy. This is really not surprising. What exactly is the Fed's reaction function if we throw financial stability into the mix? They don't know any better than we do. I don't even think monetary policymakers even share a common framework when it comes to incorporating financial stability into the reaction function.
(拙訳)
金融政策当局者は、金融システムの安定を、景気循環の過程で最大限の雇用および安定した物価を維持する際の重要な要素だと考えている。問題は、そのことが金融政策の手順において新たなトレードオフを生ぜしめ、そのトレードオフを理解しようと彼らが必死になっている、という点だ。残念ながら、現在公けの場で彼らが展開している議論は、金融政策の経路について矛盾したシグナルを発しているという点で、どこか道化染みている。これは実は驚くべきことではない。メニューの中に金融システムの安定を放り込んだら、FRBの反応関数は一体どうなるのか? 彼らはその点について我々より分かっているわけではない。金融システムの安定を反応関数に取り込む枠組みについて、金融政策担当者が認識を共有しているとさえ私は思っていない。

その上でDuyは、イエレン新議長がこの問題への対処についてリーダーシップを発揮することに期待を表明している。

*1:以前Free Exchangeに書いていた。cf. ここここここ

*2:ちなみにDuyは当該ブログ記事を「道化ショーのようなもの(Kind of a Clown Show)」と題している。

*3:ここでKleinは反面教師として2000年代前半の金融緩和を持ち出しているが、それを危機の原因と考えるべきか否かについては決着済みの問題ではなく、未だ論争が続いていること(本ブログでも何度か取り上げた;例えばここ)には無頓着なように見える。