中央銀行のコミュニケーションの明確さを採点する

というvoxeu記事が投稿されている(H/T Mostly Economics)。著者はIMFのAleš Bulíř、Martin Cihákとオランダ銀行のDavid-Jan Jansen。


以下は記事の要旨。

Quality, clear communication is a very powerful tool for central banks because it influences expectations. This column presents new research on central-bank communications, using a formal measure of clarity – the ‘Flesch-Kincaid grade level’. The picture is varied: there are significant and persistent differences in clarity over time and across countries. However – and worryingly – the financial crisis is associated with unclear communication for some central banks.
(拙訳)
質の高い明確なコミュニケーションは期待に働き掛けるため、中央銀行にとって非常に強力なツールである。本コラムでは、明確さに関する正式な尺度である「フレッシュ−キンケイド・グレード・レベル*1」を用いて中央銀行のコミュニケーションを研究した結果を提示する。得られた結果は様々である。明確さには時系列および国ごとに有意かつ継続的な違いが見られる。しかしながら、残念なことに、金融危機は幾つかの中央銀行において不明確なコミュニケーションをもたらした。


ここで調査対象となったのは、チリ、ECB、スウェーデン、英国、チェコポーランド、タイの7つの中央銀行である。原論文によると、選定基準は以下の通り。

  • インフレ予測に重点を置いていること
    • 従って、インフレ目標を採用している、ないし、インフレ予測がインフレ目標におけるのとほぼ同様の中心的な役割を占める枠組みで運営されている中央銀行が対象
    • 為替相場の安定、雇用の最大化、長期金利の抑制といった物価安定以外の目標を掲げている中央銀行は対象外
      • そうした中央銀行ではコミュニケーションは幅広い問題に触れねばならず、複数の目標間のトレードオフについても触れねばならない
      • この基準に従ってFRBも除外
  • 地域のバランスが取れていること
    • 三大陸からの中央銀行が対象に含まれている
  • 発展段階のバランスが取れていること
  • 規模のバランスが取れていること
    • 経済規模の大きい国、小さい国の中央銀行が共に対象に含まれている


また、評価対象は以下の5つの要因。

  • インフレリスクの全般的評価(内容分析より)
  • その評価に纏わる不確実性
  • インフレギャップの見通し
  • 現時点のインフレギャップ(インフレ目標からの乖離)
  • 金融政策委員会における反対票


以下は結果の概要。

  • 時系列変化
    • チリ、スウェーデン、英国のインフレ・レポートは時を追うごとに明確になった(ただし英国は2007年以降は不明確になった)。改善の程度は年率で約1/5学年*2
    • 対照的に、ECBの月次短信とタイのインフレ・レポートは時を追うごとに不明確になった。悪化の程度は前者が年率約1/10学年、後者が約2/5学年。
    • チェコポーランドについては統計的に有意なトレンドは見られなかった。
  • 各要因の影響
    1. インフレリスクの評価は、7行中4行においてフレッシュ−キンケイド評点の減少につながったが、統計的に有意なのはチェコだけだった。
      • パネル分析ではいずれも有意にならなかった。各銀行はインフレ要因の増大に対し文章を工夫して対応したが、結果は一様ではなかったように見える。
    2. インフレ評価を巡る不確実性はレポートの明確性に有意な影響を与えなかった。
    3. インフレギャップの見通しは明確さを減じた。即ち、3カ国においてフレッシュ−キンケイド評点を増加させた。ただし統計的に有意なのは英国だけだった。
      • インフレの目標からの上振れ/下振れ予想は、年率にしておよそ3/4学年の読みやすさの悪化につながった。
    4. 既に起きてしまったインフレ目標からの乖離の話は、大部分の国においてインフレ・レポートの明確さの低下につながった。ただし統計的に有意なのはチェコだけだった。
    5. 英国とスウェーデンでは、金融政策決定において反対票が多いほど明確さが増した。ただし統計的に有意だったのは英国だけだった。
  • プレスリリースや声明の読みやすさについての結果もインフレ・レポートと同様だった。

ちなみにMostly Economicsによれば、こちらのサイトではガニング・フォッグ・インデックスという別の評価方法を使ってブログの読みやすさを採点しているとの由。Mostly Economicsは自分が読みやすい方にランクインしている(評点=9学年)ことを自慢げに報告している。そのサイトは評点に応じてブログを以下の4グループに分類しているが、各グループに付けられたタイトルが面白い。

最も難解な台湾製DVDプレイヤーのマニュアルグループには、ロバート・ワルドマンやビル・ミッチェルのブログが入っている。

*1:cf. Wikipedia記事。日本語の解説は例えばこちら参照。

*2:ここでフレッシュ−キンケイド評点は「the number of years of education needed to sufficiently comprehend a text(当該文章を十分に理解するのに必要な教育年数)」として定義されている。従って、値が小さくなれば改善ということになる。