格差拡大は経済成長の減速要因か?

というスティグリッツクルーグマン追加エントリ)の間で軽く論争になったテーマについて、スティーブ・ワルドマンが考察している


彼はまず、格差拡大が無条件に過少消費につながることは無い、として、その点ではクルーグマンを支持している。


と同時に、富裕層は確かに貯蓄率が高い、ということを示した研究を幾つか挙げ、その点ではクルーグマンはきちんと文献を渉猟していない、と(暗に)批判している。


では、なぜ大平穏期には、格差拡大が続く一方で富裕層が貯蓄を拡大したにも関わらず、需要は強いままだったのだろうか? ワルドマンはその答えを、一般家計の借り入れ拡大に求める。そしてそれを可能ならしめたのは、実質金利の低下傾向にあった、と言う。その上で、そうした実質金利の低下傾向は、需要維持のために中央銀行によってもたらされた、とワルドマンは説明する。他の説明――例えば、技術や人口動態によって実質金利低下がもたらされた、というような――は市場が合理的でないか、悪いニュースが徐々に明らかになることを前提としており、説得力に欠ける、とワルドマンは一蹴する。


さらにワルドマンは、富裕層のヨットをはじめとする贅沢品も雇用をもたらす、とクルーグマンが述べた点に着目し、実際にGDPの業種別分類のデータがその観測を裏付けるかどうかを調べている。彼の結論は、否、である。


また、富裕層が需要を牽引している例としてニューヨークを挙げる人に反論し、ニューヨークは実際には経常黒字を計上し、サービスを国中に輸出しているのだ、と指摘している。


ということで、格差拡大は無条件に需要の強さと相容れない、ということはないにしても、現状の制度を前提とすると、その際に需要を支えるのは非富裕層の借り入れしかない、とワルドマンは結論づけている。現状の制度を変えるならば、富裕層の貯蓄インセンティブを下げるような税制に移行するしかないが、それは政治的に不可能だし、仮に富裕層が貯蓄の結果積み上げた富の相対的な順位をインセンティブにしているのだとしたら、税制でそれを変えるのは不可能、とワルドマンは指摘している。