逆選択が複数均衡をもたらす簡単な例

がEconospeakのkevin quinnにより提示されている


そのセッティングは以下の通り。

  • 車の売り手が12人いる。車の品質は高、中、低の3種類存在し、それぞれの品質の売り手は4人ずつ。
  • 買い手の留保価格は、高:15000ドル、中:10000ドル、低:5000ドル
  • 売り手の留保価格は、高:11000ドル、中:7000ドル、低:3000ドル
  • 車の買い手は10人。買い手はどの売り手がどの品質の車を売っているかは知らず、分布のみを把握している。


この時、各価格帯の買い手人数、売り手人数、期待価格、超過需要/供給(=買い手人数−売り手人数)は以下のようになる。

価格 買い手 売り手 期待価格 超過需要(+)/超過供給(-)
11000〜 0 12 10000*1 -12
7500〜11000 0 8 7500*2 -8
7000〜7500 10 8 7500 +2
5000〜7000 0 4 5000*3 -4
3000〜5000 10 4 5000 +6
0〜3000 10 0 0*4 +10


上表では、売り手と買い手が共に市場に現れる価格帯は2つ存在する(=7000〜7500と3000〜5000)。そして、7500ドルと5000ドルは共に均衡となる(=複数均衡)。7500ドルを高位均衡、5000ドルを低位均衡と呼ぶならば、この時の高位均衡は低位均衡をパレート支配する。


ここで売り手を労働者、買い手を雇用者とし、売り手の留保価格は機会コスト、買い手の留保価格は生産性を表すものとすると(生産性は労働者の私的情報)、上記の結果は、雇用と最低賃金の正の関係を見い出したカード=クルーガーの結果を正当化する、とquinnは言う。というのは、市場が5000ドルの賃金での均衡を予期している時に、7500ドルの最低賃金を課すことにより、高雇用の均衡に移行できるからである。


また、少し手を加えれば、高利貸し禁止法にもこれは応用できる、とquinnは言う。その場合、低位の均衡は高金利での均衡で、質が最も悪い借り手しか融資を欲しない。そこへ高利貸し禁止法を適用すれば、低金利での高位均衡をもたらし、借り手の質は高まる、と彼は述べている。

*1:3つの品質の車すべてが市場に出てくるので、(15000+10000+5000)/3=10000。

*2:中と低の品質の車のみ市場に出てくるので、(10000+5000)/2=7500。

*3:低の品質の車のみ市場に出てくるので、5000。

*4:車が市場に出てこない。