ブリューゲルブログ*1が、例のウッドフォードの論考をとば口に、ウォレスの中立性についてまとめている(H/T Economist's View)。
そこでは、中央銀行がリスク証券を買い入れることによって民間のリスクを減らすというポートフォリオバランス効果がウォレスの中立性のために無効になる理由として、以下のような説明がなされている。
...the fact that the central bank takes the real-estate risk onto its own balance sheet, and allows the representative household to hold only securities that pay as much in the event of a crash as in other states, does not make the risk disappear from the economy. The central bank’s earnings on its portfolio will be lower in the crash state as a result of the asset exchange, and this will mean lower earnings distributed to the Treasury, which will in turn mean that higher taxes will have to be collected by the government from the private sector in that state; so the representative household’s after-tax income will be just as dependent on the real-estate risk as before. This is why the asset pricing kernel in a modern representative-household asset-pricing model does not change, and why asset prices are unaffected by the open-market operation.
(拙訳)
中央銀行が自らのバランスシートに不動産リスクを引き受け、代表的家計が、危機発生時にも通常時と同じ利払いを行う証券だけを保有できるようにしても、リスクが経済から消滅するわけではない。資産交換の結果として、危機発生時に中央銀行が保有ポートフォリオから得る収益は低下し、従って財務省に納入する収益も減少する。そのため、その状態においては、政府が民間からより高い税金を徴収する必要が生じる。つまり、代表的家計の税引き後所得は、以前とまったく同様に、不動産リスクに曝されているわけだ。これが、現代の代表的家計の資産価格モデルにおいて資産のプライシングカーネルが変化しない理由であり、資産価格が公開市場操作の影響を受けない理由である。
さらに同ブログエントリでは、この中立性が破れて公開市場操作のトランスミッションメカニズムが効くようになる条件について、従来の研究をざっくり紹介している。
ちなみにここで紹介したように、少し前にAndolfattoがウォレスの中立性とリカードの中立性の関係を論じたことがあったが、このエントリでは両者の研究状況の違いについて以下のように述べている。
Miles Kimball argues that the difference in the theoretical status of Wallace neutrality as compared to Ricardian neutrality is that we are earlier in the process of putting together good models of why the real world departs from Wallace neutrality. Studying theoretical reasons why the world might not obey Ricardian neutrality was frontier research 25 years ago. Showing theoretical reasons why the world might not obey Wallace neutrality is frontier research now.
(拙訳)
マイルス・キンボールは、ウォレスの中立性に関する理論的状況がリカードの中立性のそれと違うのは、現実世界がウォレスの中立性と乖離することを説明する優れたモデルを我々が集約する過程において、まだ初期段階にある点だ、と述べた。現実世界がリカードの中立性に沿わない理論的理由を研究するのは、25年前の先端研究だった。現実世界がウォレスの中立性に沿わない理論的理由を示すのは、現在の先端研究である。