21世紀の資本家のためのスティーブの7つの洞察

というブログ記事をUmair Haqueが書いている(原題は「Steve's Seven Insights for 21st Century Capitalists」;The Big Picture経由)。ここで言うスティーブとはスティーブ・ジョブズのことである。


記事の内容は、WSJのスティーブ・ジョブズ名言集から7つの言葉をピックアップし、それにHaqueなりの解釈を加えたもの。やや牽強付会気味と思われる箇所もあるし、上から目線的な部分もあるが、以下に簡単にまとめてみる*1

  1. 重要なこと
    • 「このまま一生、砂糖水を売りつづけるのか、それとも世界を変えるチャンスをつかみたいか。」*2
      • Haqueの翻訳:人々の琴線に触れないがためにインスパイアをもたらさない仕事や重視されない商品に、残りの人生を本当に捧げるつもりかい?
         
  2. マスター
    • 「デザインというのは奇妙な言葉です。デザインとは見栄えのことだと思っている人がいます。しかし、当然のことながら、深く掘り下げてみれば、それは実に機能そのものなのです。」
      • アップルはデザインを完全にマスターした結果、デザイン分野そのものを作り変えた。一方、ギャップは繊維産業を作り変えはしなかったし、マクドナルドは栄養食品業を作り変えはしなかった。
         
  3. 途轍もないほど偉大なことを成し遂げよ
    • 「もしもあなたが、引き出し付きの美しい収納スペースをつくる大工であるとして、裏側にベニヤ板を使おうとはしないでしょう。たとえそれが壁を向いていて誰も見ないであろうとしてもです。」
      • もしこの凡庸さの溢れた世界で一頭地を抜きん出たいのであれば、毎月99個の新たな特徴を付け加えて、それを「イノベーション」と呼ぶだけでは不十分。とにかく素晴らしい仕事をするべし*3
         
  4. センスを持て
    • マイクロソフトの唯一の問題は、彼らにまさにセンスがないことです。全くありません。」
      • 失礼なことを言うつもりはないが(ただし生意気を言わせて貰えば)、今はセンスの無さが頂点に達している時代かもしれない。カスタマーサービスはあなたの名前を発音できず(あなたも彼らの名前を発音できない)、大規模小売店は詰め込み過ぎた棚を整理しようともせず、商品はどんどん安くなっている半面フランケンシュタイン博士とサイモン・コーウェル*4とWolfpack*5のドリームチームがデザインしたかのようになっている世界では、ちょっとしたセンスが競争において超強力な武器となるかもしれない。
         
  5. 神殿を打ち建てよ
    • 「仕事はあなたたちの人生の大きな部分を占めることになるでしょう。心から満足するための唯一の方法は、あなたたちが素晴らしい仕事だと確信していることをすることです。そして、素晴らしい仕事をする唯一の方法は、自分がしていることを愛することです。」
      • 素晴らしい仕事は大規模小売店には似つかわしくない。それはフェラン・アドリアの分子ガストロノミーの腕をケンタッキー・フライド・チキンで振るうようなものだ。
      • アップルストアは売っている場所と商品の相互補完が見事に成り立っている。一方、ソニーのショップがうまくいっていないのは、売っている商品が素晴らしくないからだ。いわば空っぽの神殿となっている。
         
  6. カジノを打ち建ててはならない
    • Appleにとっての打開策はコスト削減ではありません。苦境から抜け出る道をイノベートすることです。」
      • これは言うは易し、行うは難しの典型。
      • アップルの負債はゼロである。数百万ドル規模ということではなく、1ペニーも無い。カジノ資本主義の誘惑に抗することがどんどん難しくなっている社会において、ジョブズは、人々に末永く受け入れられる商品を創造することに徹し、堅固な財務基盤を構築した。
         
  7. 迎合するのではなく、さらに良いものを目指せ
    • 「私たちはMacを他の誰かのためにつくったわけではありません。私たち自身のためにつくったのです。」
      • ジョブズが客の言うことを聞かないというのは周知の事実となっており、本人もそう公言している。しかし、平均的なファンボーイ(ないし釣り師)に彼ほど熱心に耳を傾けメールに返信するCEOは他にいない。
      • ジョブズはアップルに関すること全てに異常なまでの関心を寄せるが、単に意見を拾うのが目的ではない。人々の最も突飛な要求を見分け、そこからさらに量子的飛躍を断固として成し遂げることが彼の目的なのだ。人々が今日求めるものの最低限の共通項を見い出し、それに迎合しようとしているのとは訳が違う。
      • 顧客を飛び越えていくことは、新商品ではなく新市場を作ることを意味する。実際、アップルは、上記のロジックを適用して次から次へと新市場を創造(ないし再生)してきた。

*1:なお、元のWSJ記事には邦訳が存在するので、ジョブズの言葉についてはそれを利用させていただいた。

*2:この言葉はWSJ記事には無い。邦訳はwikipediaより。

*3:Haqueのイノベーション論については拙ブログの昨年12/6エントリ参照。また、ここでのジョブズの言葉については、このサイトなどで紹介されているハンダ付けのエピソードを参照(その話は、黒澤明が「赤ひげ」で開ける予定の無い薬箱に全部本物の薬を入れさせていたというエピソードや、「トラ・トラ・トラ」の小道具の封筒に内容的に無関係な手紙が入っていたので激怒したという「果たし状事件」といったエピソードを彷彿とさせる)。

*4:この人のことか。ちなみにこの人の決め台詞「I don't mean to be rude, but」をHaqueは直前の文章で使っている。

*5:ここのことか。