行動経済学の応用と現実の壁

引き続きジョージ・ローウェンスタインのインタビューの拙訳:

インタビュアー
あなたはかつて貯蓄に即時的な愉しみを付与するために宝くじと組み合わせた貯蓄プランを提唱しましたね。
ローウェンスタイン
他の国には宝くじ付き貯蓄プランがあります。例えば英国の「プレミアム債券」では、固定金利の代わりに、投資した1ポンドごとに賞金獲得の可能性が与えられます。私は代金の半分が貯蓄に回る宝くじ券を提案しましたが、うまくいかないのではという恐れも抱いていました。それによって、そもそも貯蓄をしていた人々が宝くじにお金を回してしまうようになっては、却って良くないですからね。いずれにせよ、私がその案を売り込んだ国の宝くじの担当は興味を示しませんでした。というのは、宝くじは「扇動」から収益を上げていますので――人々はくじに当たると、もっとくじを買うものなのです。私は人々に貯蓄をさせたかったので、両者の意見が合うことは無く、案が実現することもありませんでした。
インタビュアー
つまり、心理学の洞察を実生活に応用するのは難しい、ということですね。実際、最近あなたは行動経済学の行き過ぎの可能性について警告しましたね。
ローウェンスタイン
行動経済学による解決策は、より根本的な解決努力の代替として使われることが多い、と思うようになりました。デビッド・キャメロン英首相は行動経済学が大好きで、「誰かの電気代を削減させる最善策は、自分の電気代、近所の人の電気代、および電気の節約に努める近所の電気代をその人に見せることだ」という発言をしました。この考えは、社会規範の人々の行動への影響力に関するボブ・チャルディーニ*1の研究成果に基づいています。それは素晴らしい考えであり、エネルギー消費を数パーセント削減させるでしょうが、近隣の電気代を誰かに見せることはその人の電気代削減の最善策ではありません。最善策は、石油輸入、環境汚染、温暖化等々の電気の真の社会コストを電気代に反映させることなのです。
行動経済学は公共政策に貢献できる多くの素晴らしい洞察を提供しますが、それが税金や規制を伴う実証済みのアプローチに取って代わるのだとしたら不幸なことです。

*1:cf. この本