生産性の低下は問題無い?

――カナダについては、とStephen GordonがWCIブログで書いている


そこでGordonは、カナダ統計局が算出した多要素生産性をグラフ化し、カナダの生産性の伸び悩みはボーモルの病*1によるサービス業の生産性の遅滞もさることながら、鉱業・採掘業の生産性の低下(下図赤線)によるところが大きい、と解説している。


しかしながら、この生産性の低下は心配するに当たらない、とGordonは主張する。というのは、価値というのはデブリューが言うように価格と量を掛け合わせたものであり、カナダの資源の価格は上昇しているから、とのことである。上図では今世紀に入ってから現在に至るまで鉱業・採掘業の生産性は60から40までおよそ1/3低下しているが、その間に工業製品に対する商品の相対価格は倍増している、と彼は指摘する(下図;2001年が60近辺、現在は120近辺)。

つまり、カナダの資源が製造業から鉱業・採掘業にシフトし、それによって生産性が低下したとしても、同業は依然として収益を拡大している、というわけである。そのことは、彼が以前論じたGDPとGNIの差にも表れている、と彼は言う。



少しぐぐってみると、こうしたカナダの鉱業・採掘業の生産性の低下について論じたCanadian Mining Journalという専門誌の4年前の記事を見つけることができた。同記事では、具体的には2006年の生産性の低下について以下の点を指摘している。

  • カナダ統計局によると、2006年の資源部門の労働生産性は10%近く低下し、全体の生産性を1%押し下げた。
  • 資源部門の中でもとりわけ鉱業・採掘業が低下した。原因は、生産の伸びが緩やかであったにも関わらず、雇用が10%以上と全産業で最大の伸びを見せたことにある。
  • 労働生産性は1999年にピークを付けて以来25%低下している。昨年の数字は、従来の油井の生産性の低下と、生産性の低いオイルサンドへの生産シフトを示している。実際、石油・ガス部門では昨年雇用を60%増大させたが(ほとんどがアルバータ)、何千人も雇い入れたそこでの大規模プロジェクトで実際に生産が開始されるのは数年後のことである。


また、同記事では商品価格の上昇についてはGordonと反対の解釈を採っており、それはむしろ問題を覆い隠している、と主張する。そして、2年以内に商品価格は反落すると想定されるので、高生産性を維持した企業のみ生き残る、と警告している。記事の後半では、そのために経営陣がなすべきことについて縷々論じている。


実際、Gordonの示した上のグラフでは、この記事の予言通り、リーマンショックによって商品の工業製品に対する相対価格は一旦は急降下している。しかし、その後また持ち直しており、それがGordonの楽観論の根拠になっている。つまり現時点では、この記事の悲観論よりもGordonの楽観論に分がある結果となっているわけだ。もちろん、この先の展開によってはまた話が変わってくることもあり得るが、今のところは日本のような工業国よりはカナダのような資源国に有利な局面が続いている、というのがGordonの主張の含意ということになる。