少し前にクルーグマンが、マンキューとロゴフは今回の危機への対応策として当初インフレ政策を唱導していたが、怒号に曝されて黙り込んでしまった、と皮肉ったことがあった*1。
そのマンキューとロゴフが、最近そうしたインフレ政策について改めて論じているが、その内容は対照的なものとなっている。
マンキューは先月末のNYT論説でバーナンキ擁護論をぶち、その中でインフレ目標を現在の2%から例えば4%に引き上げることは政治的に不可能(political nonstarter)で、バーナンキがそれを推し進めようとすれば直ちにクビになるだろう、と書いている。その代案として彼が提唱するのは、2%のインフレ目標をもっと明確化し、同時に物価水準目標とする――2%から逸れたら後でその分を埋め合わせるようにする――ことである。
マンキューは自ブログでこのNYT論説にリンクしているが、その2つ後のエントリで、今度はロゴフの8/2Project Syndicate論説にリンクしている*2。
そこでロゴフは、今回の不況を「大不況(Great Recession)」と呼ぶのはやめにすべきで、セカンドインパクトならぬ「第二の大収縮(Second Great Contraction)」と呼ぶべきだ、と提唱している。ここで最初の大収縮とはもちろん大恐慌のことであり、そのように呼ぶことで通常の不況との違いを際立たせることになる、というのがロゴフの趣旨である。
その上でロゴフは、2008年末の自Project Syndicate論説を再度持ち出し、4-6%の比較的高いインフレを数年間継続する、という政策を提唱している。不況と違って大収縮はそれほど頻繁にあることでは無いので、インフレ警戒論者の心配は当たらない、今は通常時に積み上げた中央銀行の信認を費消すべき時なのだ、と彼は言う。
つまり、ここに来てマンキュー、ロゴフは両者とも(クルーグマンの皮肉に反応したわけでも無かろうが)インフレ政策を改めて提唱しているわけだが、マンキューは高インフレに代わって物価水準目標に主張を転化させ、ロゴフは「今回は(通常の不況と)違う」という論理で高インフレを正当化しようとしているわけだ。
なお、このエントリに書いたように、小生もロゴフはインフレ政策を撤回したような印象を持っていた――少なくともそこで紹介したように、日本のケースについてはかなり否定的な発言をしている――ので、今回のProject Syndicate論説からは些か唐突な感じを受けた。イソップ童話の狼少年のように嘘をついているとまで言うのは言い過ぎかもしれないが、発言がぶれている感は免れないように思われる。あるいは、イソップならぬかつての東映動画の狼少年ケンのように、今後は一本気にインフレ政策を提唱していくつもりなのかもしれないが…。