デビッド・ベックワースがタイラー・コーエンの大停滞を裏付ける証拠として、以下のTFP(全要素生産性)の図を2/11エントリで提示した。
これを見ると、確かに1973年を境としてTFPが下方に屈曲している。
このベックワースの図を2ヵ月後の今月4日にコーエンがリンクしたところ、ノアピニオン氏がそれに反応し、以下のさらに興味深い図を示した(Economist's View経由;ベックワースも4/5エントリで取り上げている)。
これを見ると、確かに非耐久財のTFPは下方への屈折が見られるが、耐久財のTFPにはそういった変化は見られず、現在に至るまで継続的に成長を維持しているように思われる。両者が乖離し始めたのは、1973年よりさらに10年ほど前である。
なぜこのような現象が起きたかについては、上記の各エントリのコメント欄でMark A. Sadowskiというコメンターが以下のような説明を提示している。
- 1966年頃を境に、米国の非製造業のTFPは低下した。例外が交易と輸送。
- かつてAlexander Fieldは、この時期のTFPの成長の多くは、交易と輸送部門、特に州間高速道路システムのお蔭だと指摘した。
- 具体的な数字は下表の通り(ここで製造業は耐久財と非耐久財の両者を含む)。
Sector | 1948-66 | 1966-73 |
---|---|---|
Communication | 4.6 | 2.8 |
Public utilities | 4.8 | 1.2 |
Transportation | 3.0 | 2.1 |
Real estate | 3.3 | 1.3 |
Mining | 3.2 | 0.3 |
Trade | 2.4 | 2.0 |
Manufacturing | 2.5 | 1.9 |
- 1973年になると、交易と輸送のTFPも停滞し始めた。
- 1995-2005年の期間については、以下のような特徴が見られる。
結局、最近のTFPの成長は専らICT部門(及びそのICT革命の恩恵を受けた流通部門*1)のお蔭である、というのがSadowskiの指摘である*2 *3。
ちなみにSadowskiは、本当の意味で製造業がTFPの向上を引っ張ったのは、工場の電化が進んだ1920年代しかない、と指摘している。下表(Alexander Fieldによる)で1948-1973年のTFP成長率を上回ったそれ以外の2つの時期は、金ぴか時代は鉄道と電信、大恐慌時代は道路(トラック)、というように、いずれも輸送や通信業が牽引役となった、と彼は言う。
Average annual TFP | |
---|---|
1835-1855 | 0% |
1855-1869/1878 | (-0.5%) |
1869/1878-1892 | 2.0% |
1892-1919 | 1.1% |
1919-1929 | 2.0% |
1929-1941 | 2.8% |
1941-1948 | 0.5% |
1948-1973 | 1.9% |
1973-1995 | 0.5% |
1995-2005 | 1.5% |
*1:Sadowskiは流通部門のTFP向上を指摘するに当たってBart van Arkの研究を参照している。ぐぐってみると、参考文献には例えばこれなどがある。
*2:実はベックワースは、上記の2/11エントリの少し前に、まさにICTの発展を取り上げて、コーエンの大停滞説に疑問を唱えている。そこで彼は、1994年時点でドラマ『24』のジャック・バウアーがICT技術の未発達のために問題に直面したことを例に取っている。
*3:小生の以前の日米比較分析では、近年において日本と比べた米国の製造業の生産性向上が顕著であったが、Sadowskiが正しいとすれば、その日米の差はコンピュータ関連が主因だったことになる。