スティーブ・ワルドマンが、面白い仮説を立てている。その論理は以下の通り。
- 経済学者は価格の硬直性、とりわけ賃金の硬直性を問題にする。しかし、賃金よりももっと硬直的な価格がある。それは過去の支出の価格、すなわち債務の名目価格である(ここまでは昨年7/13エントリの内容)。
- 債務を抱えた企業が不景気に見舞われた場合、価格政策に関して以下の二つの道がある:
- 一方には、販売数量を維持するために価格を下げるという方策がある。しかし、不況前にフル稼働で生産していたならば、これは確実に売上高を減らし、破綻につながる道である。
- 一方には、価格を維持し、何らかの僥倖によって販売数量が不況の影響を免れて維持されることに賭ける、という方策がある。
- 仮説:従って、債務比率の高い業種ほど、製品価格の下方硬直性が高いのではないか。
さらに面白いことに、このエントリを受けて、RSJというコメンター(WCIブログでも良く見掛ける)が自ブログで実際にその仮説の実証を行っている(ここ、ここ;H/T ワルドマンの後続エントリ)。ただ残念ながら、結果はワルドマンの仮説に否定的である。
ちなみにRSJ自身もワルドマンの仮説に否定的であり、その論拠として以下の2つを挙げている。
- 価格は別に硬直的なわけではない。単にマクロ経済的な衝撃への反応が単純なモデルに沿わないだけである。問題はモデルにあるのであり、価格にあるのではない。
- 債務だけではなく自己資本も資本コストを支払うべき対象である。
後者は要はモジリアニ・ミラーの定理の話と思われるが、それに対しワルドマンは、コメント欄で、株主資本をコールオプションに見立てた場合は話が違ってくることを説明している*2(正確にはそうサムナーに説明した自ブログでの応答コメントにリンクしている)。