エミューと駝鳥

ハーバード大教授のジェフリー・フランケルが、ギリシャ問題への対応についてEUの当局者(とりわけECB)を痛烈に批判している


フランケルは、EUの対応の失敗として以下の3点を挙げている。

  1. そもそも2000年にギリシャの加盟を認めたこと。
    • ギリシャは地理的にも経済的にも外れ値であり、マーストリヒト基準をまったく満たしていなかった(特に財政赤字GDP比3%という上限)。ギリシャ人自身も、もし自国通貨を維持していたならば現在の状況は遥かにましだった、ということに同意するに違いない。
       
  2. 2002-2007年にギリシャ(や他の周縁国)の国債金利のスプレッドがゼロ近くにまで落ちるのを許容したこと。
    • 財政赤字と債務水準が安定・成長協定の上限を大きく超えていたにも関わらず、ギリシャはドイツ並みの借り入れ条件を享受していた。
    • 責任の一部は、リスクを過小評価した投資家と、欧州の債務問題について先行指標ではなく遅行指標でしかなかった格付け機関にもある。ただ、両者とも、ギリシャの債務をドイツのものと等し並みに扱ったという点でECBに責を負わせ、自らの行動を正当化し得る。
       
  3. ギリシャを早めにIMF送りにしなかったこと。
    • ギリシャ国債金利が6%に達する前にそうすべきだった。
    • 2010年1月までにはその必要性は明らかだったにも関わらず、フランクフルトとブリュッセルの指導者たちはショック状態に陥っていた。彼らは手を拱いていないで、ギリシャ危機をユーロを永続させるための先例を確立する機会としてむしろ歓迎すべきだったのだ。
    • こうした問題が早晩どこかで起きることは予期されていた。だからこそマーストリヒト基準や非救済条項(1991)や安定・成長協定(1997)が設けられたのだ。ユーロが完成する前に、懐疑的なドイツの納税者は、どこかの浪費的な地中海の国をいずれ救済する羽目に陥るのではないかと懸念していた。EUの指導者たちは、まさにそうした懸念に対応するために、それらの財政規則を導入した。
    • 今回の問題に関して、EUの指導者たちはむしろ自分たちの幸運に感謝すべきであった。というのは:
      1. ギリシャ政府は規則を派手に破ってくれたので、強硬姿勢で臨むことが正当化される。もしここでそうしなければ、放蕩国家も最後には救済されるという悪しき前例と、それに伴うモラルハザードという頭痛の種を抱え込むことになる。
      2. ギリシャ経済の規模はそれほど大きくないので、ギリシャ政府ほど非難に値しない国や機関(アイルランドのように危機前に責任ある政策を追求した政府や、ギリシャ国債保有している銀行)への波及効果を防ぐのに十分な資金を用意できる。
    • EUの指導者はまた、IMFの存在にも感謝すべきである。IMFならば、隣国や同盟国といった内輪よりも厳しい条件で救済に臨むことができる。
    • ところがEUの指導者たちは未だに、IMFに頼るのは問題外で、自分たちで何とかできると言い張っている。EMU(Economic and Monetary Union=経済通貨同盟)は駝鳥のごとく頭を砂に突っ込んで現実を見ようとしていない。ドイツの納税者の懸念が一貫して正しかったことが証明されたわけだ。


フランケルはエントリの最後に、エミュー(もちろん経済通貨同盟の略称に掛けている)と駝鳥の写真をあしらった金利のグラフを示している。