なぜ予想インフレ率と株価の相関が高いことが需要不足を意味するのか?

とケビン・ドラムが問い掛けている
この問い掛けはサムナークルーグマンのブログエントリを受けたものだが、それらのエントリで二人は、2008年以降に株価と予想インフレ率の相関が高まったことを報告したDavid Glasnerの論文を取り上げ、これぞ需要不足の証拠、と囃し立てている。それに対し、その理屈が良く分からん、とドラムが首を捻っている訳である。


この問い掛けに対し、ドラムのエントリのコメント欄で論文の著者のGlasner自身が答えているほか、Kashというブロガーも自ブログで答えているEconomist's View経由)。

両者の回答内容は基本的に同じで、実際にはその相関は需要不足を意味する訳では無く、金利がゼロ下限に達したことを意味しているのだ、と説明している(特にGlasnerは、自分は総需要云々という考え方は好きではない、とわざわざ断っている)。


ただ、両者の説明の具体的内容は幾分異なっている。


Kashの説明を小生なりに要約すると、次のようになる:
株価は基本的には将来のキャッシュフローを資本コストで割り引いたものだが*1、分母の資本コストも分子のキャッシュフローも名目値なので、通常は、予想インフレ率の影響を分子・分母共に平等に受けて、株価自体は予想インフレ率とはあまり相関を持たない。
しかし、金利がゼロ下限に達した状況下では、分母の資本コストは単にゼロ金利にリスクプレミアムを加えたものになるので、予想インフレ率は分子のキャッシュフローのみに効くようになり、結果として株価と相関を持つようになる。


一方、Glasnerの説明は、以前のエントリで紹介したケインズの説明に近い。即ち、ゼロ金利下限では、資産と貨幣の自己利子率の均衡が崩れているので、予想インフレ率がその均衡の回復に関して重要な役割を果たすようになる。そのため資産価格は予想インフレ率の動向に敏感になる、というわけである。

*1:cf. ここ