失業者の就労が増えているのは需要不足説と整合的なのか?

とDavid Andolfattoがブログで問い掛けた
そこで彼は、以下の2つの図を示している。

最初の図は、失業と就労の間を遷移した労働者の数である*1。就労状態から失業状態に移行した人数(赤線)が景気後退期に増えているのは、経済が需要不足に陥っているという説が予想する通りだが、意外にも、失業状態から就労状態に移行した人数(青線)も同時に増えている。

2番目の図は、失業と労働市場からの撤退との間を遷移した労働者の数である。ここでも、失業状態から撤退状態に移行した人数(青線)が景気後退期に増えているのは予想通りだが、意外にも、撤退状態から失業状態に移行した人数(赤線)も同時に増えている。

この撤退状態→失業状態、および、失業状態→就労状態への遷移フローが増えているのは需要不足説と整合的なのか、というのがAndolfattoの問い掛けである。


これに対しコメント欄では、複数のコメンターが、失業状態→就労状態への遷移フローが増えたのは、そもそも母集団の失業者数が多くなったためではないか、と一斉に指摘している。


またAndolfattoは、コメント欄でのやり取りを受けて、以下の2つの図を後から追加している。

最初の図は撤退状態と就労状態の間の遷移図、次の図は無業状態(=撤退状態+失業状態)と就労状態の間の遷移図である。撤退状態と就労状態の間の遷移フローは、景気後退期にいずれの方向ともに低下している。また、無業状態→就労状態は景気後退期には概ねフラットだったのに対し、就労状態→無業状態は増えている。即ち、失業と撤退状態をひとまとめに考えると、比較的直観に合う結果になるように思われる。


なお、コメンターの一人であるrortybomb(=マイク・コンツァル)は、自らが執筆者の一人となっているレポートにリンクしているが、その中の、3つの状態間の遷移を一つにまとめて表した図が分かりやすいと思われるので、以下に再掲しておく。

これを見ると、2007年12月から2010年8月に掛けて失業者数は770万人から1490万人にほぼ倍増している。従って、Andolfattoの最初のグラフにあるように失業→就業の遷移者数が20%増えたとしても、母集団の増加から考えれば増えた部類に入らない、というのがrortybombらの指摘である。
実際、そのレポートの別の図では、失業者全体に対する比率として失業→就業および失業→撤退のフローを描画しているが、それによると直近の景気後退ではいずれも低下傾向を示している(下図)。

ここで失業→撤退が比率ベースでは低下しているのは、若者の失業の増加のほか、定年後の高齢者が経済不安から労働市場に踏みとどまっているためではないか、とrortybombは推測している。
ちなみに、反対方向の撤退→失業は絶対値ベース(Andolfattoの2番目の図)でも比率ベース(下図;rortybombのレポートより)でも増加しているが、これは夫が職を失った妻が職探しを始めた影響ではないか、とコメンターの一人reasonが面白い推測をしている。



ただし、Economist's View経由でこのエントリを嗅ぎ付けたクルーグマンが、

Unfortunately, Andolfatto looks at the wrong data; read the comments on his post to see the issues with using the flows he focuses on.
(拙訳)
残念ながら、Andolfattoは間違ったデータを見ている。彼のエントリのコメント欄を読めば、彼の持ち出したフローデータを使うことの問題点が分かる。

と自ブログで端的に指摘したように、これらのフローデータに基づく議論では、Andolfattoのそもそもの問い掛け、即ち、失業が需要不足によるものか否かについての結論を出すことはできない。コメンターの一人が指摘し、Andolfattoも概ね納得しているように、仮に失業が構造調整によるものだとしても、各遷移フローが同様の傾向を示すことはあり得るからである。
その点について、Andy Harlessは、「So I will invert the original question: if total transitions to employment are falling, how is that not consistent with deficient demand?(元の質問を逆さにして問いたい:もし就労への全体のフローが減っているならば、どうしてそれが需要不足と整合的でないということになるのかね?)」とAndolfattoに反問している。


またクルーグマンは、先のエントリで以下の図を示している。

これによると、新規雇用者数がまず落ち込み、しばらく経ってから離職者数が低下している。しかし、離職者数の低下は、解雇ではなく自主退職の下げ止まりによるもの、とクルーグマンは言う。解雇は危機のピーク時に増加し、その後に通常水準に戻った、とのことである。この図が示しているのは、需要不足の特徴に他ならない、従ってケインズの世界になっているのだ、というのがクルーグマンの主張である。

*1:単位はMillionとなっているが、これはThousandの誤り(小生の指摘により本文で修正の注釈を追加済み)。