消費税、法人税、所得税と設備投資

nyanko-wonderfulさんBaatarismさんが相次いで消費税増税を取り上げ、消費税をはじめとする各種税金の推移グラフを示した。それらのグラフを見て小生の目を惹いたのが、話題の消費税や法人税の推移もさることながら、バブル崩壊以降の所得税の急低下ぶりであった。


nyanko-wonderfulさんの示されたデータソース「長期時系列データ|統計情報|国税庁」を見てみると、一口に所得税と言っても、まず申告所得税と源泉所得税に分かれ、さらに源泉所得税の対象所得が、利子所得、配当所得、上場株式等の譲渡所得等、給与所得、退職所得、報酬・料金等所得、非居住者等所得に分かれていることが分かる。そこで、以下では、所得税を申告所得税、利子所得税、配当所得税、給与所得税、およびそれ以外の所得税に分け、法人税と消費税と並べて描画してみた(単位:兆円[以下同じ])。

これを見ると、申告所得税、利子所得税、給与所得税のそれぞれが、凹凸や時差がありつつもそれぞれバブル崩壊後に長期的に低落し、結果として所得税全体の大きな低下がもたらされたことが分かる。


上図を積み上げ棒グラフにすると、以下のようになる。


こうしてみると、nyanko-wonderfulさんが指摘する通り、所得税法人税バブル崩壊後の不安定さと比べた消費税の安定ぶりが目立つ。財源として注目されるのもむべなるかな、という気がする。


ここで、最初の折れ線グラフにGDPの名目消費を足してみると(右軸)、消費税が安定している理由が伺える。

即ち、消費自体の安定性が消費税の安定性をもたらしていることが分かる。
もちろん、上図では消費の縮尺が大きいために消費の変動が隠れている、という見方もできよう。そこで、右軸の縮尺を左軸と同じにして、税側は消費税と法人税に表示を絞ってみたのが下図である。

消費が多少(=数兆円レベルの)ジグザグな動きをしても、消費税に与える影響は限られることが分かる。
なお、ここまでの各税は、すべて還付分および既往年分等も含むその年の納税額合計を用いてきたが、上図では併せて消費税の現年納税申告分のみの推移も示してみた。こちらは合計よりも直近で2兆円程度多いが、その差の殆どは現年還付分である。年を追ってその還付分が増加しつつあるため、現年納税分がほぼ横ばいでも、合計値がやや低下傾向にあることが分かる。


一方、名目消費の代わりに名目投資を描画してみると、こちらは法人税の動きにほぼ連動していることが分かる。

即ち、企業収益の動向が、投資と法人税の双方に概ね同時に影響を与えているわけだ。
そのほか、グラフの所得税のうち給与所得税も、法人税や設備投資と連動傾向があるように見える。さらに言うならば、一つ前の拡大縮尺の名目消費のグラフにおいて、消費も法人税と少なくとも局所的には連動しているように見える。これらの傾向は、企業収益が給与所得に反映し、それがさらに消費に影響を与える、という通常の経済の動きとして納得できる結果である。


では、現在検討されているような法人税率の切り下げは、その企業収益にどのような効果をもたらすであろうか? それが企業活動を刺激し、経済のエンジンたる設備投資を上昇させると同時に、法人税も結果として押し上げるラッファー曲線的な効果が見られるであろうか?
Wikipediaによると、実は1998-99年において、法人税率がそれまでの37.5%から30%に切り下げられている。確かにそのすぐ後にITバブルが発生し、1999年から2000年に掛けて上図の法人税も投資も上向いている。しかしその上昇幅は、法人税率の変更の無かった1996年や2005年よりも小さく、ITバブル崩壊と共に直ちに再び低下に転じている。それに加え、ITバブルは世界的な現象であったので、日本の法人税率引き下げが国内のITバブルにどの程度影響を及ぼしたかは疑問の余地がある。


また、ここここの研究では、法人税減税が設備投資に与えるプラスの影響はあるものの*1、その効果は投資減税に比べれば限られる、と報告されている。さらに、実際の企業行動を見てみると、法人税減税を行ってもキャッシュの溜め込みや借金の返済に回るだけ、という現象が日本のみならず米国でも見られるという指摘もある。
そうしてみると、企業収益の経済活動に与える影響を重視するならば、法人税減税よりは投資減税に目を向けるべきではないか、という気がしてくる(そういえばマンキューも昨年末に米国について投資減税を訴えていたが…)。

*1:cf. 小生もここで簡単な証明を行った。