1%の金利引き下げと同等の財政政策は…

  1. 1年後に消費税を恒久的に1%引き上げ
  2. 同じく1年後に労働所得税を恒久的に1%引き下げ
  3. 今後1年間に投資減税を実施

という財政政策の組み合わせが、1%の金利引き下げと同等の効果を持つという。ミネアポリス連銀総裁のコチャラコタ18日のスピーチで、そのことを示した研究*1を紹介している(Mostly Economics経由)。


コチャラコタの説明するその理屈は概ね以下の通り。

  • 金利1%を引き下げるということは、貯蓄して1年後に得られる額が1%少なくなるということ。従って、従来だったらその貯蓄で1年後に購入できた消費財について、金利引き下げ後は購入資金が1%不足することになる。それと同等の効果を得るためには、消費税を1年後に1%引き上げれば良い。それにより、消費財を1年後では無く今日買おうというインセンティブが強まる。
  • しかし、1年後の消費税引き上げには、金利引き下げに無い副作用がある。それが、単位当たり労働で購入できる消費財を少なくすることにより、労働意欲を低めること。この副作用を打ち消すため、労働所得税を同時に1%引き下げる必要がある。
  • 1年後の消費税引き上げには、金利引き下げに無い副作用がもう一つある。それが、消費減退を見越した今後1年間の投資低迷。それを補うため、投資減税を実施する必要がある。ただし、次年度以降は消費税は再び一定になるので、この投資減税は1回限りで良い。


コチャラコタはまた、この政策が財政に与える影響を非常に大雑把な形で試算している。

  • 年間の消費はおよそ10兆ドルであり、労働所得はおよそ8兆ドルである。従って、1年後の消費税1%引き上げと労働所得税1%引き下げの組み合わせは、財政にとっておよそ年200億ドルの増収要因となる。
  • 民間粗投資はおよそ2兆ドルなので、消費税増税による悪影響を相殺するため1%の補助を提供するとすれば、投資減税額は200億ドルとなる。ということは、この計画は財政的に辻褄が合う、ということだ。


さらにコチャラコタは、この政策セットが所得分配に与える影響について以下のようにコメントしている。

  • 消費税の1%引き上げと労働所得税の1%引き下げは、低所得層に税負担の皺寄せが行く傾向を持つ。従って、労働所得税の減税については、結果的にその税金が累進的であるようにするのが望ましい。


なお、コチャラコタは、スピーチでは1年間の金利引き下げについて述べたが、複数年に亘る金利引き下げと同等の政策は、1年後に消費税を1%引き上げた後に、その1年後にもう1%引き上げること(+それに合わせた労働所得税減税と投資減税)だ、と注釈で追記している。



日本でもこれと同様の提案はネット上などで幾度か見られたが、実際に研究論文の形で示され、金融当局の高官が有望な政策として取り上げたのはひょっとすると今回が初めてかもしれない。



ちなみにMostly EconomicsのAmol Agrawalは、コチャラコタも変わったのかな、と以下のような感想を漏らしている。

Another interesting bit is Kocherlakota changing his earlier stance from preferring to sit on sidelines (and thus coming across as a hawk) to wanting do something to resurrect the US economy (and thus changing to a dove).
(拙訳)
もう一つ興味深い点は、コチャラコタが以前のスタンスを修正し、傍観者として振舞う(そのためタカ派のように見えた)よりも、米国経済復活のために何かしたいと思うようになった(それによってハト派に転じた)ことだ。

*1:Correia, Isabel, Juan Pablo Nicolini, and Pedro Teles, “Optimal Fiscal and Monetary Policy: Equivalence Results,” Journal of Political Economy 116 (February 2008), pp. 141-70.
コチャラコタはまた、Correia, Isabel, Emmanuel Farhi, Juan Pablo Nicolini, and Pedro Teles, “Policy at the Zero Bound,” working paper (October 2010) も参考文献として挙げている。