バーナンキは間違っていたか?

少し前のvoxeuに、Johanna Mollerstromによる「The source of the global trade imbalances: Saving glut or asset price bubbles?」という記事が上がっていた。以下はその冒頭部。

In 2005 Ben Bernanke gave two influential speeches where he launched the hypothesis of a global savings glut as the cause of the world’s large trade imbalances in general and the large US current account deficits in particular.
By “global savings glut” Bernanke meant a significant increase in the global supply of savings, starting in 1995. He put forward China as one of the most important suppliers of savings during this period. Bernanke further argued that this saving glut was the underlying factor for the large inflows of credit into the US, something which in turn gave rise to a consumption boom and subsequent large current account deficits.
Bernanke’s statement was controversial, not least since it appeared to place the underlying cause, and hence in some ways the responsibility, for the US imbalances outside the US.
(拙訳)
2005年、ベン・バーナンキは2つの影響力の大きなスピーチを行い、世界の巨額の貿易不均衡全般、および、特に米国の巨額の経常赤字の原因を、世界的な貯蓄過剰に求める仮説を打ち出した。
「世界的な貯蓄過剰」という言葉でバーナンキが指したのは、1995年に始まる世界の貯蓄の供給の大幅な増加である。彼は、この期間の最も重要な貯蓄の供給者の一つとして中国を挙げた。バーナンキはさらに、この貯蓄過剰が米国への巨額の資金流入の要因であるとし、それによって消費ブームとそれに続く巨額の経常赤字が発生した、とした。
バーナンキのスピーチは議論を巻き起こしたが、それは米国の不均衡の原因、従ってその責任の一端を、米国の外に求めたことが少なからぬ理由になっていた。


しかしMollerstromは、このバーナンキの仮説は誤りである、と論じる。理由は以下の通り。

  • 1995年から2005年に掛けて米国の経常赤字は確かに1%から6%に大きく増加したが、その間の世界の貯蓄率は、1995年の22.3%から2002年の20.6%に下がっている。増加したのはその後で、2005年に22.8%になった。これは世界の貯蓄の供給の大幅な増加とは言い難い。
  • 最近のLaibsonとMollerstromの共同論文では、モデルを用いてバーナンキの仮説の検証を試みた。そのモデルで米国の経常赤字をカリブレートしたところ、外生的な資金流入は確かに消費の増加をもたらすことが分かった。しかし同時に、そうした資金流入によって、投資がGDP比で少なくとも4%上昇するはず、という結果が得られた。だが、実際にはそのような投資ブームは起きておらず、1995年から2005年に掛けての投資のGDP比率は、上下を繰り返した挙句に1.6%上昇したに過ぎない。しかも、2003年の同比率は1996年よりも低かった。
  • データに適合したのは、人々の非合理性によって資産価格バブルが起き、そのバブルのために自分たちが金持ちになったと錯覚し、消費ブームが起きた、という仮説であった。実現しなかった将来の生産性上昇の割引価値としてそうしたバブルをモデル化したところ、消費の大幅な増加と投資の極めて緩慢な増加、そして経常赤字のGDP比6%への上昇を同時に説明できた。
  • 上述のモデルは消費ブームと経常赤字の相関を予言しているが、実際、Aizenman and Jinjarak (2008)が行った世界各国のクロスセクション分析では、住宅価格上昇と経常赤字の間に高い相関が見られた。相関は因果関係を示すものではないとは言え、住宅価格上昇がホーム・エクイティ・ローンやモーゲージ借り換えによる現金化を通じて消費ブームに大きく貢献したというGreenspan and Kennedy (2008)の分析などを考え合わせると、因果関係は資産バブルから経常赤字の方向であると考えられる。