インフレコストに対する見方が経済学者と一般の人々で異なる理由

Mostly Economicsで表題のエントリが上がっていた(原題は「Why do economists and ordinary people differ on the costs of inflation?」)。内容はセントルイス連銀のYi Wenによるレポートの紹介*1


レポートの概要は以下の通り。

  • 一般の人々はインフレを生活水準を低下させるものとして忌み嫌うが、経済学の理論によればインフレのコストは僅かなものに過ぎない。というのは、名目所得は予想インフレに連動するので、インフレのコストは、金利の付かない現金を保有することによる機会コストに留まるからである。実証分析によれば、そのコストは、年率10%のインフレで消費の0.1〜0.8%程度である。
  • この経済学者と一般の人々のインフレに対する受け止め方の差としては、2つの要因が挙げられる。
  • 一つは、Wen自身の研究が指摘したもので、通常の経済学のインフレコストの測定では、現金の保険(バッファ)としての機能を無視している、というものである。それを考慮すると、年率10%のインフレのコストは消費(所得)の8〜12%に達する。
  • 二つ目は、一般の人々がインフレのコストと裏腹の恩恵を認識しないことにある。
    • シラーは、一般の人々はインフレが購買力を損なうことを認識する一方、名目所得を引き上げることを認識していない、と指摘した。
    • また、政府の財政赤字がインフレの原因の場合、その政府支出による恩恵は見過ごされがちである。この時、人々は、所得税を嫌うのとまったく同様に「インフレ税」を忌避しているわけだ。

*1:元レポートのタイトルは、同レポートの参考文献にも上がっているシラーの1997年の論文(リンク先は1996年時点のWP)と同じ「Why Do People Dislike Inflation?」となっているが、Mostly Economicsのタイトルの方が内容により即しているように思われる。