ユーロ崩壊:あるシナリオ

フェリックス・サーモンの5/20ブログエントリより。

2010年8月18日
スペインが自国の窮地に立つモーゲージの貸し手の救済費用が2500億ユーロ以上に達すると発表し、水曜日の世界の市場が暴落した。S&Pとムーディーズは直ちにスペイン国債を格下げし、それによってスペインとポルトガル両国の債務不履行もしくは減価の懸念が高まった。米国を含む主要市場すべてにおいて株価が5%以上下落した。
2010年8月19日
ドイツのアンゲラ・メルケル首相が、ジャン=クロード・トリシェ欧州中央銀行総裁と共同という前例の無い記者会見で、欧州の結束を損ない共通通貨の存続を脅かす「投機家とヘッジファンド」を激しく非難した。彼女はまた、スペイン、ポルトガルギリシャのために欧州が5000億ユーロを出資し、投資家たちが新規融資を完全に停止する中でそれらの国が自国の銀行を救済することを支援する、と述べた。
2010年8月22日
イラク戦争反対以来の大規模な組織的デモにおいて、欧州中の怒れる有権者たちと反対政党が何百万人も繰り出し、南欧諸国に対する何千億ドルもの支出、および、IMFギリシャ、スペイン、ポルトガルに要求した厳しい緊縮策に抗議した。
世論調査によると、ユーロ圏の圧倒的多数が今回の救済策に反対している。ドイツをはじめとする欧州の北側では自分たちの資金が海外に支出されることに反対し、ギリシャやスペインをはじめとする欧州の南側ではブリュッセルの官僚やIMFに自国に運営方法を指図されることを拒否している。
ギリシャでの暴動の写真は残念ながら既に御馴染みとなっているが、ドイツでも暴動が見られるようになった。
2010年8月23日
欧州での騒乱のために今日も世界中の市場が暴落した。また、どの政党も欧州史上最も不人気な政策を支持することの政治的メリットを見い出せないため、欧州各国で連立政権の崩壊が発生した。アンゲラ・メルケル自身、以前の声明から後退し始め、どんな民主主義政治も市民の意向に反した一方的な行動は取れない、と述べた。
2010年8月24日
欧州危機の解決となるかもしれない動きが今日ついに出てきた。ギリシャ、スペイン、ポルトガル、そしてイタリアは、救済プログラムの一環であるEUIMFからの融資を今後は拒否し、自力で問題を解決すると発表した。4ヶ国のいずれも借り換えに必要な資金の当てが無いため、この共同声明は市場では事実上の債務不履行宣言と受け止められた。
2010年8月25日
ギリシャ国債の償還期限を3年延長する債務再編を発表した。
既存の債務は新ドラクマ建ての新たな債券と交換される。ギリシャ政府はこれから導入する新ドラクマとユーロの交換比率を1対1にする予定だが、「闇市場」では既に1新ドラクマ=50ユーロセントで取引されている。
2010年9月13日
イタリア、スペイン、ポルトガルの再建計画案に土壇場になってフランスが加わったことで、今日の市場に再び衝撃が走った。4ヶ国はいずれも、従来のユーロ建て債務を、彼らが「ニューロ」と呼ぶ通貨建ての新たな債務と交換する、と発表した。ユーロ圏の他の国の中にも、ユーロを離脱してニューロに加わる意思を示すものが出てきた。闇市場では既にニューロは75ユーロセントで取引されている。なお、新ドラクマは45ユーロセントで安定している。
今日は、10年間の歴史を刻んだユーロの最後の日となった。欧州は、複数の変動相場制通貨の時代に戻る。これは同時に、政治的結びつきが弱まることも意味している。ユーロの死と共に、欧州連合そのものの未来についても非常に不確実性が増したようだ。


これはBBCラジオの3分番組でサーモン自身が朗読したもののスクリプトとのこと。同番組はネットでも聴けるが、かなりおどろおどろしい効果音が付いている。


なお、エコノミスト誌のシャルルマーニュ(Charlemagne)というコラムのコラムニストは、この番組やその他の英国でのユーロに関する報道を取り上げて、このようにアングロサクソンのマスコミが無責任にユーロ危機を囃し立てるのはいかがなものか、と苦言を呈した。同コラムニスト――wikipediaによるとデビッド・レニー(David Rennie)という英国人ジャーナリストらしいが――によると、サーモンの前に彼自身がBBCからこのラジオ番組をオファーされ、そんなオーソン・ウェルズの「宇宙戦争」みたいなことができるか、と断ったとの由。

これにサーモンが反発しエコノミスト誌自身も下記のような「地獄の黙示録(Apocalypse now)」をもじった表紙を作っているではないか、とその偽善ぶりを逆に批判している。