金融政策補完計画

ジェームズ・ハミルトンが「Treasury Supplementary Financing Program (SFP)」について書いているロイター等でも報じられているが、このたび、SFP(ロイターは「補完的資金調達プログラム」という訳語を当てている)が再開されることになったという。


このSFPについては、以前ハミルトンによるFRBのバランスシートの分析を紹介した際に注で軽く触れたが、より詳しくは本石町日記さんの2008/9/22エントリで解説されている。
SFPの位置付けは、一言で言うと、準備預金から資金を吸収するための代替手段、とのことである。これについて小生の理解したところを図にしてみると、以下のようになる。

  • 通常の資金吸収の売りオペでは、下図のように、中央銀行の手持ちの国債を売って準備預金から資金を吸収する。


  • それに対し、SFPでは、財務省が新規に国債を発行して銀行に渡し、その代金を、中央銀行の銀行の準備預金から政府口座への移転という形で受け取る。従って、中央銀行の資産は変化しない。


今回のSFP再開に関する財務省の2月23日付けリリースは以下の通り。

Treasury anticipates that the balance in the Treasury's Supplementary Financing Account will increase from its current level of $5 billion to $200 billion. This will restore the SFP back to the level maintained between February and September 2009.

This action will be completed over the next two months in the form of eight $25 billion, 56-day SFP bills. Starting tomorrow, SFP auctions will be held each Wednesday at 11:30 a.m. EST, unless otherwise noted.

http://www.ustreas.gov/press/releases/tg560.htm

(拙訳)
財務省は、補完的資金調達口座の残高が50億ドルから2000億ドルに増加すると見込んでいる。これにより、SFPは、2009年の2月から9月の間に維持されていた水準を回復することになる。
これは、今後2ヶ月に250億ドルの56日SFP証券を8回発行することにより実施される。明日を初日として、SFP入札は、特に変更の断りが無い限り、毎週水曜日の11:30ESTに実施される。


これに対し、ハミルトンは以下のような疑問を投げ掛けている。

So this is going to be implemented immediately and on a large scale. But why? If the goal were indeed to drain reserves, the Fed could do this by selling some T-bills out of its own holdings, currently some 3/4 trillion, or could do this with reverse repos or the Term Deposit Facility, not to mention selling some of its trillion dollars worth of MBS. And just two weeks ago Fed Chair Ben Bernanke seemed to be saying that such steps were still far in the future, and did not even mention the possibility of a surge in the SFP.
(拙訳)
というわけで、直ちに大規模に実施されるわけだ。しかしなぜ? もし目的が本当に準備預金の吸収にあるのだとしたら、FRBは現在3/4兆ドルに上る手持ちの短期国債を一部売却することによってもそれを達成できるはずだ。あるいはリバースレポやターム預金ファシリティでも良いし、もちろん1兆円相当のMBSの一部の売却でも良い。また、わずか2週間前にベン・バーナンキFRB議長は、そうした段階はまだまだ先だと言っていたように見えたし、SFP拡大の可能性についてはおくびにも出さなかった。


そしてハミルトンが着目したのが、WSJブログの以下の憶測である。

The practical effect of this move is that the Fed will be able to finish $1.25 trillion of purchases of mortgage backed securities by the end of March without printing more money. Instead, it will have the cash on hand from the Treasury deposits to fund the purchases. As of February 17, the Fed's portfolio of mortgage backed securities had reached $1.025 trillion, roughly $200 billion short of the objective.

Another Fed Maneuver to Digest - Real Time Economics - WSJ

(拙訳)
この動きの実際的な効果は、FRBが、1.25兆ドルのMBSの購入を、紙幣をこれ以上増刷することなしに3月末までに完了できることにある*1FRBは、紙幣の増刷の代わりに、財務省の口座から、購入のための現金を手にすることになる。2月17日現在、FRBMBSポートフォリオは1.025兆ドルに達し、目標まであとおよそ2000億ドルとなっている。

この2000億ドルという数字は、今回のSFPの額と符合する。
前述の本石町日記さんのエントリでは、「国債発行で調達した資金はFRBの政府預金口座に入れる(多分)。これは融資の財源にもなる。」と書いた上で、「これは融資の財源にもなる。」の部分を後から取り消し線で消されているが、まさに今回はそうした目的(正確には融資ではなく資産買取だが)のために使用される、というのがWSJブログの読みなわけである。


これをまた図にしてみると、以下のようになる。

  • 普通の資産買取だと準備預金をさらに積み上げることになってしまうが…

  • SFPによって、準備預金を増やすことなしに資産買取ができる。


ただ、ハミルトンは、アトランタ連銀の数字では、MBS買取額が2月3日の週に既に1.177兆ドルに達していることに首を捻っている。そのアトランタ連銀のレポートによると、目標の1.25兆ドルに3月末までに達するためには、残り8週間で毎週92億ドルずつ買っていけば良い、とのことである。これはSPFで毎週調達する予定の250億ドルの半分以下である。こちらの数字が正しいとすると、SFPのこのタイミングのこの規模での再開は、やはり謎、ということになる。


なお、WSJブログは、財務省はずっとSFPの上限を50億ドルから増やすことを狙っていて、それが漸く今月初めに議会に認可された、という政治的な背景も報告している。ハミルトンは、結局、この要因がタイミングを決めたのかもしれない、と書いている。ただ一方で、ひょっとすると公定歩合引き上げと何か絡んでいるのではないか、という疑念も捨てきれないようである。エントリの最後には、明日(=24日)のバーナンキ証言で何かまた明らかになるかも、と書いている。

*1:ちなみにここでWSJブログは、printing moneyを準備預金増加と同義に使用しているが、こうした使用法には批判も強いようだ(例:ここここ)。