今回の金融危機を機に、これまでの金融の技術革新の意義を問い直す声が上がっている。拙ブログでも、ここやここでそうした議論を紹介した。中には、ここで紹介したクルーグマンのように、「その多くが規制を巧みにかいくぐったという代物で、評価に値するものではなかった」と断じる人もいる。ボルカーに至っては、重要な技術革新はATMくらいで、しかもそれも金融と言うより機械の技術革新だ、と述べている。
そうした中、ブルッキングス研究所のRobert E. Litanという人が、これまでの金融のイノベーションの成果を格付けする試みを行なった(Economist's ViewでリンクされたEconomic Principals経由)。その論文の表1に彼の下した評価がまとめられているので、以下に転記してみる。
アクセス | 利便性 | 生産性/GDP | |
---|---|---|---|
支払い | |||
現金自動預け払い機(ATM) | ++ | ++ | + |
クレジットカードの拡張 | ++ | ++ | + |
デビットカード | ++ | ++ | + |
貯蓄 | |||
短期金融資産投資信託(MMF) | ++ | ++ | 0 |
指数連動ファンド | ++ | ++ | + |
上場投資信託(ETF) | + | + | 0/+ |
有限組合 | |||
ヘッジファンド | 0 | 0 | 0/+ |
プライベート・エクイティ | 0 | 0 | + |
物価連動国債(TIPS) | ++ | ++ | 0/+ |
投資 | |||
信用格付け | ++ | ++ | 0 |
変動金利住宅ローン(ARM) | ++ | N/A+ | -/- - |
ホームエクイティライン(HELOC) | ++ | ++ | - |
資産担保証券(ABS) | ++ | ++ | -/+ |
債務担保証券(CDO) | ++ | ++ | - - |
投資ビークル(SIV) | ++ | ++ | - - |
ベンチャーキャピタルの隆盛 | + | + | ++ |
リスク移転 | |||
オプション・先物の取引所および価格付け | + | + | +/++ |
金利スワップ/通貨スワップ | ++ | ++ | +/++ |
クレジット・デフォルト・スワップ(CDS) | + | + | + |
ABSについては、生産性/GDPに与えた影響への評価に+と-の両方が付いているが、Litanはそれについては本文を参照して欲しい、としている(ちなみに彼は、証券化全般もこの項目に包含している)。要は、確かに今回の危機では生産にマイナスに働いたが、それまでのプラスの貢献も無視できない、ということのようである。
彼はまた、CDOとSIVへのプラスの評価は暫定的なものである、と断っているほか、ベンチャーキャピタルが生産性/GDPに与えた影響への評価についても、将来は不確定(最近ベンチャーキャピタルの性格が変わりつつあるように見えるが、それが一時的なものか恒久的なものかまだ見極めが付かない)、としている。