りんごとみかんの比較

night_in_tunisiaさんが訳された昨年末のジョン・テイラーメンジー・チンの両ブログエントリでは、チンの昨年11/16のエントリが経済政策評価の基準として言及されている。同エントリはギリシャ文字を散りばめた数式が議論の主要な部分をなしていて少しとっつきにくいのだが、その数式を一般的な関数の形で置き換えた方が理解しやすいように思われるので、以下にその形で紹介してみる。


財の需要と供給が
 (1) 供給y=f(トレンド項a、価格x、撹乱項ε)
 (2) 需要y=g(価格x、財政政策z、撹乱項u)
の形で表されるとすると(y、a、x、z、ε、uはいずれも時系列変数。f(・)、g(・)は関数)、均衡産出量は、両者を連立して解いて価格を消去し
 (3) 産出y=h(a、z、ε、u)
として求められる。ここで、関数h(・)は線形性を仮定しているので、その前期差は
 (4) Δy=h(Δa、Δz、Δε、Δu)
となる。
この場合、財政政策に変化が無い場合のΔyの最尤推定値は
 (6) Δy=h(Δa、0、0、0)
である*1
一方、財政政策に変化がある場合のΔyの最尤推定値は
 (7) Δy=h(Δa、Δz、0、0)
である。
そして、実際の観測値は当然ながら
 (8) Δy=h(Δa、Δz、Δε、Δu)
である。


問題は、オバマ政権の政策効果を批判する人たちが、(8)と(6)を比較してΔzの効果を評価していることにある、とチンは言う。その場合、実際にはΔεとΔuの合成項が大きな負のショックとして現れているので、財政政策の効果を過小に見積もってしまうことになるわけだ。本来比較すべきなのは、(8)と以下の(6')である、とチンは主張する。
 (6') Δy=h(Δa、0、Δε、Δu)


そして、批判をするならば、用いる関数h(・)の係数の評価の違いに基づいて批判すべきであり、そうした批判ならば合理的と見なせる、と指摘する。


その挑戦に応えて財政政策の効果の乏しさを示したのがテイラーの12/30エントリで、チンも12/31エントリでテイラーの提示した反例が上述の基準に則っていることを認めている*2。その上で、金融政策に関する仮定の違いや戦時データを用いたことが、関数h(・)の係数の評価の違いにつながったのではないか、とテイラーに反論している。

*1:チンは(5)式として生産要素の式を導入しているが、ここでは省略。

*2:テイラーの提示した反例の一つは、以前クルーグマンが批判したジョン・コーガン(John Cogan)、トビアス・クイック(Tobias Cwik)、ジョン・テイラーJohn Taylor)、ボルカー・ウィーランド(Volker Wieland)の推計。もう一つの反例は、これまた以前クルーグマンが批判したバローの推計。