費用便益分析を行なう時に忘れてはならない8つのこと

一般に経済学の観点からは、温暖化や医療を巡る議論において、費用便益分析を判断材料にすることが好まれる。ハーバード大教授のロバート・スタビンズは、ブログで、その際に忘れてはならない8つの原則を挙げている(この原則の初出は、スタビンズがケネス・アローらと執筆した1996年のサイエンス記事とのこと)。

  1. 費用便益分析は、政策の望ましい影響と望ましくない影響を比較するのに有用である。というのは、俎上に上がっている政策変更の望ましい結果、および望ましくない結果を明らかにし、場合によってはそれらの結果の定量的な評価を提示することにより、政策決定者がその決定の意味をより深く理解するのに役立つからである。しかし、時には、不確実性が大きすぎて、ある決定の便益が費用を上回る、もしくは下回るという結論が下せず、費用便益分析が使えないこともある。
     
  2. 規制の整備に当たっては、政策決定者から、異なる幾つかの政策の経済的費用と便益を考慮する機会が奪われないようにすべきである。便益と費用のバランスを取ろうとする行為についての法的な禁止令を考慮対象外とすることが、より効率的で効果的な規制を作る手助けになる。
     
  3. すべての重要な規制政策の決定においては、費用便益分析が要求されるべきである。費用便益分析の規模は、関連する利害関係、および分析結果が最終決定に影響する度合いに応じて決められるべきである。
     
  4. 政府当局は主要な政策決定に当たって費用便益分析を実施すべきである。また、もし、予想される便益が予想される費用よりも小さいことをはっきりと示す信頼できる証拠があるにも関わらず、当該政策を選択した場合には、説明責任が発生する。しかし同時に、当局は、費用便益分析の検証結果に杓子定規に縛られるべきではない。経済的な総便益と総費用以外の要因が重要な場合もあるからである。
     
  5. 対象となる政策の便益と費用は、可能な限り定量化されるべきである。しかし、すべての影響が定量化できるわけではないし、ましてや貨幣換算できるわけではない。従って、政策決定の際に、定量的要因が重要な定性的要因を押し退けてしまうことが無いように注意しなくてはならない。政策当局が「のりしろ」を欲するならば、それは明示的に導入されなくてはならない。
     
  6. 規制に関する分析が外部からの評価に曝されるほど、分析の質は向上する。事後評価も定期的に実施すべきである。
     
  7. 便益と費用の算定に当たっては、一貫した経済的仮定が用いられるべきである。重要な変数としては、社会的割引率、早世や事故のリスクを減らすことの価値、その他の健康改善の価値、が挙げられる。
     
  8. 費用便益分析は、便益と費用の全体的な関係にまず焦点を当てるが、良い分析は、人口の主要な部分集合についての重要な配分効果も明らかにするものである。
結論
公式的な費用便益分析は、賢明な公共政策策定の必要条件でもないし、十分条件でもないが、ばらばらな情報を一貫した形で整理するのに非常に有用な枠組みを提供することができる。それによって、政策分析の過程ならびに結果を大きく改善することができる。