新・カルドア事実

Economist's Viewでポール・ローマーとチャールズ・ジョーンズの共著論文「The New Kaldor Facts: Ideas, Institutions, Population, and Human Capital」が紹介されていた。


論文の抄録は以下の通り。

In 1961, Nicholas Kaldor used his list of six “stylized” facts both to summarize the patterns that economists had discovered in national income accounts and to shape the growth models that they were developing to explain them. Redoing this exercise today, nearly fifty years later, shows how much progress we have made. In contrast to Kaldor’s facts, which revolved around a single state variable, physical capital, our six updated facts force consideration of four far more interesting variables: ideas, institutions, population, and human capital. Dynamic models have uncovered subtle interactions between these variables and generated important insights about such big questions as: Why has growth accelerated? Why are there gains from trade?
(拙訳)1961年、ニコラス・カルドアは6つの「定型化された」事実のリストを提示し、経済学者が国民所得統計に見出したパターンを要約すると同時に、そのパターンを説明するために発展しつつあった経済成長モデルを方向づけた。50年近く後の今日にその試みをもう一度行なうことは、我々がどれだけ進歩したかを示すことになる。一つの状態変数、すなわち物的資本を巡って記述されたカルドアの事実とは対照的に、我々が更新した6つの事実は、より興味深い4つの変数の考慮を要求する。即ち、知識、制度、人口、人的資本である。動学的モデルはこれらの変数間の微妙な相互作用を明らかにし、次のような大きな質問について重要な洞察をもらたしてきた:なぜ成長は加速したのか? 貿易からの利得は何か?


論文で紹介されているカルドアの事実とは、次の6項目である。

  1. 労働生産性が持続的な速度で成長した
  2. 労働者一人当たりの資本も持続的な速度で成長した
  3. 資本の実質利子率ないし収益率が安定していた
  4. 生産に対する資本の比率も安定していた
  5. 資本と労働の国民所得に占める割合が安定していた
  6. 高成長国の間で「2-5%程度の」目に見える成長率のばらつきがある


一方、著者達の提唱する新たなカルドアの事実とは、次の6項目である。

  1. 市場規模の拡大
    • グローバリゼーションと都市化により、商品、知識、金融、人々の流れが増加し、全ての労働者ならびに消費者にとっての市場の範囲が広がった。
       
  2. 成長の加速
    • 何千年もの間、人口成長率ならびに一人当たりGDPの成長率は加速し、事実上のゼロから、前世紀に見られたような比較的速いペースにまで上昇した。
       
  3. 現代における成長率のばらつき
    • 一人当たりGDPの成長率のばらつきは、技術のフロンティアから遠いほど大きい。
       
  4. 所得ならびに全要素生産性における大きな格差
    • 一人当たりGDPの国家間の非常に大きな格差は、測定される投入量の差では半分以下しか説明されない。
       
  5. 労働者一人当たりの人的資本の増加
    • 労働者一人当たりの人的資本が世界中で劇的に増加している。
       
  6. 実質賃金の長期にわたる安定
    • 単純労働力に比べて人的資本が増加したが、その相対価格が継続的に低下するということは無かった。