豪州の経済学者ジョン・クイギンの「論破された/時代遅れになったドクトリン(Refuted economic doctrines)」シリーズの9本目が出た(自身のブログエントリはこちらで、集団ブログCrooked Timberの同内容のエントリはこちら。ちなみに、前回(8本目)のテーマは、ブライアン・キャプランとの賭けに発展した柔軟な労働市場の優位性)。
今回槍玉に上がったのはリアル・ビジネス・サイクル(RBC)理論。なお、彼は7本目でニューケインジアンを批判対象にしている(本ブログではここで紹介)。
今回の内容をざっとまとめると以下の通り。
- RBCは80年代に新しい古典派経済学の変異体として誕生した。それは理論面と技術面で大きな革新をもたらした。
- 理論面での特徴は、新しい古典派が完全雇用の状態を経済の均衡状態と見なして外生的ショックがあってもそこに戻ると考えたのに対し、RBCはショックによる雇用などが変動することを認め、そうした変動自体が社会的に最適かつ均衡的な反応であると考えた。
- 技術面では、RBCは、実際に観測されたデータに最も合うようにモデルのパラメータを推計するカリブレーションという手法を用いた。
- 2つの革新は相互に関連は無かった。
- 技術面については、ニューケインジアンと統合したと言える。ただ、RBC派は、モデルにひねりを加えたことによる最適状態からの乖離を最小限にしようとしたのに対し、ニューケインジアン派は、むしろそうしたひねりによって最適状態からの大きな乖離が生じることを主眼に置いた。とはいえ、今回の危機に関しては両派ともに役に立っていない。
- RBC理論にとっての障壁は大恐慌だった。彼らの理論では、大恐慌発生時に科学的知識が突然3割も後退した、もしくは、世界の労働者が突然怠け者になったことになる、というのがケインジアン側からの嘲笑の種だった。
- これに対しRBC側は、90年代の終わり頃から、大恐慌からの回復の遅れの原因をルーズベルトならびにそのニューディール政策に求めることで反撃を開始した。これは大恐慌が全世界的な現象であることを無視し、1929-1933年の期間に起きたことは(それ以降に起きたことに比べれば大したことでは無いとして)軽視することを前提にしていた。こうした論理は、第二次世界大戦の原因をヤルタ会談に求めるのに似ている。