欧米の失業率を巡る賭け・続き

昨日のエントリでは、欧米の失業率を巡るブライアン・キャプランの賭けのオファーと、それに応じたジョン・クイギンを取り上げたが、その後、キャプランがEconlogでクイギンに反応した*1


そこでキャプランは、スプレッドを1ポイントから広げる用意はあるが(メールで1.5ポイントはどうかとクイギンに逆提案したとの由)、囚人を含める云々という考え自体には難色を示している。
彼は、労働政策では米国の方が欧州より優れているものの、刑罰制度では欧州の方が優れていることは認めている。しかしそれでも、現在の囚人が娑婆に出たら皆失業者になるという前提は受け入れられない、と書いている。

ちなみにクイギンの元のエントリ(ただし昨日リンクを張ったCrooked Timberエントリではなく彼自身のブログのオリジナルエントリ)では、この囚人の件について、以下のような追記が書かれている(注:この追記はキャプランのエントリが上がる前に書かれている)。

Quite a bit of quibbling in comments as to whether prisoners should count as unemployed. To short-circuit this dispute, can we all agree that breaking rocks (or similar) under armed guard is a bad labor market outcome, as is being unemployed. As the desire to debate this point shows, the excess prevalence of the first of these outcomes in the US, relative to the EU, is similar in magnitude to the excess prevalence of the second in the EU. Combined, they pretty much cancel out.

(拙訳)囚人を失業者としてカウントすることを難じるコメントが数多くあった。議論の要点を手短に言ってしまえば、武装した監視のもとで岩を砕くこと(もしくは似たような作業)が、失業と同様、悪しき労働市場の結果であるということに同意するか否か、だ。これが議論の的になっていることから分かるように、その悪しき第一の結果が欧州に比べ米国でより広く見られる程度は、第二の結果が欧州でより広く見られる程度に概ね等しい。合算比較すると、かなりの程度相殺される。


キャプランは、さらに、クイギンが米国の労働市場の柔軟性に対する対価が小さい(失業率でせいぜい1ポイントの低下)と論じたことを揶揄している。曰く、自分が大学生の頃には、左派系の学者は他の学者よりも失業を重要な問題と考えたものだし、自分もその考え方が正しいと思う。ところが、自由な労働市場が低失業率を達成するのを見ると、彼らはその考え方を変えてしまった。それはただの負け惜しみ、酸っぱい葡萄症候群ではないかね。


キャプランのエントリのコメント欄では、そういえば18〜19世紀の英国は失業問題を豪州に犯罪者を追い出すことで解決していたんだよな、だから豪州の経済学者は分かっているのだろう、という皮肉っぽいコメントが見られる(その後には、1770年代以前は豪州ではなく米国が追放先だったんだよ、というさらに皮肉っぽいコメントもある)。
もう少し真面目なコメントとしては、欧州政府はあの手この手で失業率を下げようとする、だから労働参加率も併せて見ないといけない、という指摘がなされている(デンマーク人のコメンテータからは、自国のそうしたやり方を暴露するようなコメントも寄せられている)。


OECDにしろEurostatにしろ、基準を揃えた(harmonized)非失業率を出しているので、こうした批判がどこまで有効かは良く分からない。ただ、そうした統計批判に応じるかのような興味深いブログエントリがEconomist's Viewで紹介されている。書いたのは、レイン・ケンウォーシー(Lane Kenworthy)というアリゾナ大学で社会・政治科学を専門とする教授。


そのエントリでケンウォーシーは、労働年齢人口(通常は15-64歳)における雇用率の各国比較を行なっている(データソースはOECD)。

彼はまず、直近2つの景気の山、即ち2000年と2007年の雇用率を比較する。すると、米国は2007年の雇用率が2000年に比べ低下した数少ない国の一つであることが分かる(それでも、2007年において対象20ヶ国中10位の位置を保っている。ちなみに日本は12位で、上記キャプランコメント欄で指弾されていたデンマークはスイス、ノルウェーに次いで3位)。


次いで彼は、2007年以降の最近の変化の各国比較を試みている。ただ、残念ながら雇用率は足が遅くて使えないので、雇用者数自体の変化率を代替変数として用い、2007年第4四半期から2008年第4四半期までのその変化率をプロットしたグラフを示している(2009年第1四半期のデータがあるものはそこまでの変化率も併記)。このグラフを見ると、確かに米国の雇用者数の落ち込みが大きく、2009年第1四半期までに4.5%下がり、650万人の仕事が失われたことが分かる(2008年第4四半期までの変化率ベースでは対象19ヶ国中下から3位。ちなみに日本はその次に悪く、下から4位)。


こうした分析結果から、ケンウォーシーは、米国の労働市場の優位性は失われた、というCEPRの研究者の見解を支持している。

*1:エントリでは終始クイギン(Quiggin)をクイガン(Quiggan)と誤記しているので、コメント欄でその間違いを指摘されている。