The Baseline Scenarioで、サイモン・ジョンソンが、米州開発銀行におけるサマーズの講演内容*1を批判的に紹介している。
ジョンソンによれば、サマーズの講演のポイントは以下の5点。
- あらゆる危機はいつかは終わる。経済の「自己均衡」の働きが最終的に取り戻される。ただし、そのためには政府の大きな財政支出が必要になるが、そうした危機は一世紀にせいぜい3,4回しか発生しないので、そうした巨額の支出も正当化される。その後の経済成長によって、財政支出により生じた負債の問題を矮小化する(grow out)ことができる。
- 危機脱出のため、2年前には人々にやめさせたがった行動を今は逆に促進する必要がある。それはすなわち、借り入れによるレバレッジである。
- 金融機関の自己資本を現在の状況に伴うリスクを考慮した上で適正化する必要がある。銀行へのストレステストはそれを目的にしている*2。
- 1990年代以降の経済成長は金融に頼りすぎた*3。企業利益で金融業界の比率が高まったことは警告として受け止めるべきだった。今後の経済拡張は、資産バブルではなく、主要な公共サービスへの投資に支えられなくてはならない。
- 金融監督システムは根本的に失敗だった。20年間に数多くの深刻な危機があり過ぎた*4。
これに対し、ジョンソンは以下の疑問を書き連ねている。
- 危機が最終的に終わるにしても、どの程度のスピードで終わるかについて触れられていない。つまり、1990年代の日本のような停滞を避ける方策が示されていない。消費者や企業のバランスシートの問題に目を向けず、財政拡張と銀行支援だけで事足れり、としている。
- 短期的には金融業界を支援するとしているが、これはポイント#4と矛盾なしとしない。政府の支援が得られるならば、人や資本は金融業界から別の業界に移動するインセンティブを持たないのでは?
- 巨大金融機関の利益を支えるために多大な努力が払われている状況で、真の規制改革ができるだろうか?
- サマーズの危機に対する見方は、不運な事故というもので、それを生み出した政治経済情勢への認識が欠如している。つまり、金融業界の政治への影響が大きくなりすぎたことが危機の原因になった、という認識である。
- 政府は、巨大銀行の意思を尊重し、財政刺激策を打つことによって経済への信頼を取り戻そうとしているようだ。しかし、IMFや米財務省が途上国に、あるいはサマーズが1990年代に日本に要求していたのは、問題銀行を整理することによって余計な財政支出を省き、経済への信頼を取り戻すことではなかったか?
5/5エントリで紹介した論説や、他のThe Baseline Scenarioのエントリに見られるとおり、ジョンソンは一貫して金融機関に厳しい視線を向けており、オバマ政権のやり方が手ぬるく感じられるのだろう。上記のサマーズ批判からも、歯がゆさを感じていることが伝わってくる。