マイロン・ショールズ「店頭CDS市場なぞ爆破しちまえ」

TIMEのジャスティン・フォックスによると、今月6日のNYU主催の金融危機に関する会合で、ショールズがそう述べたという。ブルームバーグも同様に報じているほか(ジョージ・ワシントンブログ経由)、NYUのこの動画で実際の発言が確認できる。


ブルームバーグの記事に採録されている発言を下記に引用しておく。

The “solution is really to blow up or burn the OTC market, the CDSs and swaps and structured products, and let us start over,” he said, referring to credit-default swaps and other complex securities that are traded off exchanges. “One way to do that, through the auspices of regulators or the banking commissioners, is to try to close all contracts at mid-market prices.”

CDSやらスワップやらストラクチャー商品やらの現在の契約はすべて仲値で手仕舞って、いちからやり直そう、と述べている。


ちなみにショールズは、レッド・アデア方式の救済、という表現を使っているが、wikipediaによると、レッド・アデアとは米国の有名な油田火災消防士で、爆破によって油田火災を消し止める方式の第一人者とのこと。そのwikipedia記事やこの共同通信の訃報によると、ジョン・ウェイン主演の映画「ヘルファイター」のモデルになったほか、湾岸戦争後のイラク軍が放火したクウェート油田の鎮火にも尽力したとの由。また、このサイトでは、「昭和三十四年に発生したクエートにある日本のアラビア石油の油田火災もこの人物が消し止めた」と書かれている。さらに、このサイトによると、彼の存在が「アルマゲドン」誕生のヒントにもなったとのこと。
(個人的には、油田火災を爆破で消火、というと、「恐怖の報酬」が真っ先に思い浮かぶのだが、こちらの映画との関係を示す記事は見つからなかった。まあ、良く考えてみればこの映画は消火自体がテーマではないしな…。)


TIMEのフォックスは、ショールズがレッド・アデアをしばしばフレッド・アデアと言い間違えたことを面白おかしく取り上げている(上記のNYU動画でも言い直す場面がある)。これについて、FTのジョン・ガッパーが、政府がレッド・アデアのように問題解決に取り組む面があるかと思えば、フレッド・アステアのように問題の周りで踊っているという面もあったので、ごっちゃになったのだろう、と冷やかしたところ、ショールズも否定しなかったとの由。


ショールズのこの発言には、当然ながら、何でブラック・ショールズ式の生みの親が…、という反応もあったようだ。フォックスの記事によると、会合の席でも、モデレーターのポール・ボルカーがそのような方向のコメントをしたが、ショールズが自身の責任を認めることはなかったという。ただ、ウォール街のリスクモデルは、個々の投資家のリスクを捉えるには良いかもしれないが、市場全体のリスクを捉えるには適していない、という批判について、「集計リスクは非線形だ」という表現で同意したとのこと。
また、ブルームバーグの記事では、ISDA(国際スワップデリバティブ協会)CEOロバート・ピッケルの「見当違いも甚だしい、何考えているんだ」というショールズ発言への反発を伝えている。


なお、ショールズの爆破発言とは離れるが、フォックスの記事では、以下のボルカーとガッパーのやりとりも面白かった。

ボルカー
我々は2階建ての金融システムを持つ必要があるのかもしれない。規制の強い「商業銀行」部分と、規制の緩いヘッジファンドや自己勘定売買部門などの外部領域部分、という2階建てだ。
ガッパー
ふむ。それは何だかかつてグラス=スティーガル法案と呼ばれたものを思い出させるね*1

記事によると、ボルカーは国際的な金融機関規制の協同体制を目指しているが、これに関してショールズは「サルコジに屈して我々をフランスにするつもりか」と強く反発したとのことだ。

*1:ボルカーの2階建ての案は、ここで取り上げたマイケル・スペンスの案とも通じるものがあるように思われる。ちなみにガッパーは、「もし新しいグラス=スティーガルを作るとしたら、どこで線を引くのかね?」という疑問を呈したとの由。