バーナンキは再任されるべきか?

バーナンキFRB議長を再任するかどうかの上院での審議がたけなわとなっているが、NYタイムズの経済ブログEconomixで、エコノミスト等の賛否の声がデビッド・レオンハートによりまとめられている


ニュースで報じられているように、バーモント出身で無所属のバーニー・サンダース上院議員が再任反対派の筆頭格となっているが、彼のHPでは反対理由がまとめられている。サンダース議員の主張を一言で言えば、「フットボールの試合で負け続けている監督がいれば、交代させるべき」ということである。そのHPのあるページでは、バーナンキの過去の発言が、様々な見通しを誤った証拠として提示されており、レオンハートはそこから以下の発言を引用している(拙訳;括弧内はレオンハートによる追記)。

●2005年7月1日
(住宅バブルが存在しているかどうか、それが景気後退をもたらすかどうかというCNBCの質問に対し)その可能性はまずありそうにない。全国レベルでの住宅価格の低下はこれまで起きたことがない。私が今後起きると考えているのは、住宅価格上昇が鈍化し、おそらくは横ばいになり、消費支出を若干は弱めることだ。しかし、経済を完全雇用の経路から大きく逸らすことになるとは思わない。
●2007年5月17日
サブプライム市場から経済全体ないし金融システムに大きく飛び火するとは思わない。
●2007年1月18日
サブプライム市場に問題が発生する1ヶ月前、不況の始まる5ヶ月前)雇用は拡大するだろう・・・グローバル経済は依然として強い。・・・金融市場は経済成長を支援し続けている。
●2008年2月28日
大手銀行の自己資本比率は引き続き良好で、深刻な問題が発生するとは思わない。・・・大手の国際的に展開している銀行で、我々の銀行システムの重要な部分を担っている銀行のことだ。
●2008年6月9日
(不況入りしてから6ヵ月後、金融危機が始まる3ヶ月前)経済が大いなる下降局面に入ったというリスクは、先月辺りに消滅したものと思われる。
●2009年5月5日
現在、我々は[失業率が]10%に達するとは考えていない。(5ヵ月後、失業率は10.2%に達した)


エコノミストの中でレオンハートがバーナンキ反対派として挙げるのは:

  • ウォールストリートジャーナル編集局
    • 2003-2005年にデフレの幻影に怯えて過剰緩和を主導したのがバーナンキだったことがFOMCの議事録公開で明らかになった。その結果資産バブルが発生した。しかし彼はそのことを後悔せず、世界的過剰貯蓄のせいにしている(お前はエディット・ピアフか、とWSJは揶揄している)。
    • FRB議長の真価が問われるのは金融引き締め局面だが、彼のこれまでの仕事を見ていると、ドルの維持やインフレ抑制のためにその際の厳しい批判に耐える覚悟ができているとは思われない。


対するバーナンキ支持派としてレオンハートが挙げるのは:

  • Mark Thoma
    • 確かにバーナンキは診断を間違えたかもしれないが、他の多くの経済学者も同罪。
    • バーナンキ等は責任を任された医者として辛抱強く粘り続け、何が問題か、どんな処置が必要か、を正確に把握するようになった。その結果、患者はもっとひどくなる可能性から救われた。その点では彼らは評価に値する。患者は助かるだろうが、そのことは最初から明らかだったわけではない。
  • ヌリエル・ルービニ
    • 2007年夏に流動性と信用が逼迫した時、バーナンキFRBの政策をUターンさせ、危機から恐慌状態に陥るのを防いだ。その際、彼は、伝統的金融政策には無い方策を主に用いた。・・・FRBの創造的かつ積極的な行動は、恐慌状態に陥るリスクを大いに減らした。この理由だけでも、バーナンキ氏は再任に値する。1913年の創設以来最も過激な経済介入からのFRBの出口戦略を彼に任せるべきなのだ。
  • グレッグ・マンキュー
    • ベンのこれまでの決断に合理的な疑問を差し挟む余地はあるものの、全般に彼はFRBを慎み深く知的に、知恵と優雅を以って運営してきた。
  • バリー・リソルツによると、同僚の経済学者からの支持は高い。リソルツ自身もどちらかというと肯定的のようだ。

なお、Calculated Riskはバーナンキ支持だったが、今回の上院での証言を見て再考中とのこと(ただし彼への人格攻撃に対しては擁護する姿勢を見せている)。ちなみにレオンハートは、Calculated Riskの7/26エントリを見て当初のエントリでは反対派に分類していたとの由。



ちなみに、レオンハートの記事では触れられていないが、Economics of Contemptも、1ヶ月前まではバーナンキを熱烈に支持していたが、改めて彼の施策を振り返って考えを変えつつあるとのことである。彼がバーナンキの決断の中で間違いだったと思うようになったのは以下の2点。

  • 2008年初のソシエテジェネラルの不正事件でアジアと欧州の市場が下がった時、75ベーシスポイントも利下げして、弾を一気に3つも使ってしまった。
  • リーマン破綻直後の火曜日に利下げしなかった。

これにより、バーナンキの市場への洞察力に疑問を抱くようになった、その点ではグリーンスパンに劣るのではないか、とEconomics of Contemptは書いている。