平均消費性向と限界消費性向

マンキューブログのこのエントリを読んでしばらく意味が分からなかったが、ケインジアンクロスで使われる消費関数を思い浮かべて漸く理解した。そこで、はてなのお絵かきを初めて使ってみるという意味もあって、そのマンキューのロジックを図式化してみた。

上で縦軸は消費、横軸は所得である。当初は、図の黒線のような消費関数を想定する。この傾きは限界消費性向(MPC=Marginal Propensity to Consume)で、マンキューはrという変数で表記している。


ここで、経済の不確実性が高まり、家計が予防的に貯蓄を増やすとする。その場合、各家計の平均貯蓄性向(APC=Average Propensity to Consume)は低まる。図では高所得家計と低所得家計の2箇所に例を取ったが、いずれにおいても、APCが赤線の傾きから青線の傾きに変化し、従前より低くなる。

ただ、所得の低い家計の方がより多く予防的貯蓄を行なうであろう。そうすると、傾きの変化は高所得家計よりも低所得家計の方が大きい。その結果、経済の不確実性を取り込んだ消費関数は緑線のようになり、その傾き、すなわちMPCは以前よりむしろ高くなる。


このマンキューのエントリは、現在の状況下では減税を行なっても貯蓄に回り、消費は増えないだろう、というニューズウィークダニエル・グロス記者の記事への反論として書かれたものである。


ここで注意すべきは、マンキューが主唱する減税が、上のロジックによるMPCの増加と結びついて経済に対し効果を発揮するためには、その減税は恒久的なものではなくてはならない点である。さもなければ、恒常所得仮説により、グロス記者の言うとおり、ほとんどが貯蓄に回ってしまうであろう。減税が恒久的で、各家計の恒常所得が一段階上に(上図で言えば右に)ステップアップすれば、MPCが以前より増加した分だけ、消費増分も確かに大きくなる。
実際、マンキューは給与税の恒久的な削減を訴えており(代替財源としてガソリン税の段階的増税も同時に主張している)、グロス記者が批判対象として(バローの主張と共に)記事で取り上げたのもその主張である。


もう一つ注意すべき点は、もしマンキューの想定する通り、低所得階層での予防的貯蓄の増加=消費の落ち込みが大きいのであれば、減税もそうした階層に重点を置くべき、ということになる点である。マンキューが仕えたブッシュ政権の減税は、しばしば金持ち優遇と批判されたが、このロジックから行くと――少なくとも現在のように経済の不確実性が増している状況下では――そうした方策は採るべきでないことになる。


なお、上の図からは、経済の不確実性を払拭し、消費関数を元に戻した方が当然ながらより良い政策であるという考察も導かれる。MPCの上昇はあっても、やはり緑線と横軸に挟まれた面積よりも、黒線と横軸に挟まれた面積の方が大きいだろう。マンキューも、金融システムを復旧し、住宅の不良債権問題を解決するのが根本的な対応策であり、減税を含む財政政策は対症療法に過ぎない、と釘をさしている。ただ、これについては、公共支出により経済の不確実性を減らせば、それ自体も根本的解決策の一助になる、という反論も考えられる。